猜疑心

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 二週間後の木曜日。空木は秋元との約束通りに東京にやってきた。東京に初めて来たわけではないが、AT商事の本社ビルがある新富町の駅に降り立つのは初めてだった。  AT商事は中堅の総合商社で従業員400名以上を抱える規模の株式会社だ。東京の本社ビルには150名ほどが勤めているらしいと以前日夏から聞いたことがある。  新富町駅近くのカフェで秋元と待ち合わせをすることになっていた。でもなんとなく散歩がてらに駅の周辺を歩いていた時にAT商事の本社ビルの前を通りがかる。  そこをなんの気なしに通り過ぎようとしたところで、「空木!」と声をかけられた。  ——聞き覚えのある声。  振り返るとそこには日夏がいた。 「空木! こんなところでお前に会えるなんて嘘みたいだ……!」  日夏に腕を掴まれ、本社ビルの隣の小さな公園とも空き地とも呼べるような場所に連れて行かれる。 「ありがとう、空木! ずっとお前に連絡しようと思ってたんだ。でも勇気が持てなくて……。嬉しいよ。お前、俺に会いに来てくれたんだろ?」  なんだこいつは……。日夏はものすごい勘違いをしているようだ。  そしてこの手のひらを返したような態度は何だ? 「日夏。俺がお前に会いたいと思うわけないだろ。既婚者は浮気なんてしないでさっさと家に帰れ!」  定時で上がれたのなら、真っ直ぐ家に帰って家族サービスでも何でもすればいいだろ。  もうこれ以上日夏に関わりたくない。 「空木、なんでそんな冷たいこと言うんだよ。俺はお前とやり直したい」  やり直したいだと……?  日夏のふざけた態度に苛々して思いっきり睨みつける。
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