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お嬢様、人助けで、川へ飛び込む
ラングリド家の未来を担うものとして、はたしてこのままが正しいのか。令嬢として、執事をちゃんと管理しないといけないのではないのか。
実情は異なるとはいえ、世間体というものがある……
そう思いながら、リリアは家の近くの川沿いまでずんずんと歩く。軽装をしているので、一見良い仕立ての服を着た村娘だ。豪華なドレスよりも、動きやすさを求めてしまうので、年頃の娘にしては飾り気がなさすぎるだろう。
「このままだと、いずれ社交界デビュ-か……」
家を担うものが、まるで人を知らないでは、話にならないだろう。
だが社交界でぼっちになる未来しか見えず、リリアはため息をついた。
この未来に対する不安から生じる、心もとなさをどうにかしたい。
ずっと、この場所でいたい……
そう思った時、飛んできた白い小鳥がリリアをぐるりと飛び回り、可愛らしく鳴いた。鈴の音がなるような鳴き声の不思議な鳥だ。タイミングも相まって、リリアは小さく微笑む。小鳥のお陰で、現実に意識が立ち戻れた。
「あら、タイミングがいいのね……ありがとう、そうね、前向きにいかなくちゃね」
小鳥はリリアの言葉を理解したかのようにピピピと鳴き、また上空へ飛び去った。
気分転換のためにリリアが訪れることも多い、川沿いまでやってきた。
川には橋がかけられ、子どもたちが橋のたもとで遊んでいた。
元気な声が聞こえる。川に石をなげたり、足を水につけて水遊びをしているようだ。
声が輝いて、眩しさすら感じる。
「ルオネル……こっちよ、こっち」
幼い頃、兄妹のように育った頃は、リリアとルオネルはこの川で一緒に遊んだものだ。意外と深みがあり、その部分に気をつけて遊んでいた記憶がある。
「リリア、あんま無茶しないでよ、何かあったら、大変だよ」
そう昔は、ルオネルは結構な心配性で、おてんば気味のリリアをよく心配していた。リリアは大丈夫よとルオネルによく笑いかけていた気がする。
あれはもう、いったい、何年前か……。
「ルオネルも私も、成長しちゃったわねぇ……」
ほんわかするような、少し切ないような……子どもたちの今の輝きがきゅっと胸に詰まる。それでも愛おしい気持ちがこみ上げて、遊ぶ様子を眺めていると。
「うわぁあああああ、あいつ、溺れてるぞ!!」
子供の大声が聞こえてきた。リリアはびっくりして思わず川の岸辺に駆け寄った。
「どうしたの、何があったの」
子供に声をかけると、半べその子供が。
「リックが川の中に入りすぎて……あそこでっ」
パニックを起こした声で叫んだ。指を向けた方をみると、子供が沈みかけていた。リリアの顔は顔面蒼白になった。人を呼ぶべきだろうが、いや、それでは間に合わない……。
「リックが、リックが、死んじゃう……」
子どもたちの中で動揺が広がっていく。リリアは川をにらみつけるように見ていたが、やがて落ち着きはらった声で言った。
「大丈夫です、リックさんは」
リリアは靴を脱いだ。
「私が助けます……泳ぎは得意ですの……」
リリアは上着をぬぐと、そのまま勢いよく川に飛び込んだ。
「ぐっ・・・」
服が水を吸い重くなる。しかしリリアは前に進んだ。
今、ここで助けなければ、子供の命は潰える。眼の前で人が死ぬのは目覚めが悪い。
それと同時にあそこにいる子どもたちに、友達の死を味わせるのは、あまりに可愛そうだった。
「負けません……!」
こうすると決めたら、リリアは迷わない。行動にプライドをかけている。
幸い、いろいろな面で何かあったときの対処は学んでいるのだ。
まさに沈む、その瞬間の、リックの体をリリアはつかんだ……子供は力がぬけ、とても重い。小さいとはいえ、まだ少女を抜けきらないリリアには荷が重い重さだった。だがここで諦めては自分も死ぬ……リリアは必死に泳いだ。
「はやくっ、病院にっ……!」
咳き込みながら、リリアは岸辺にたどりつく。先にリックと呼ばれた子供を引き上げ、大きく声をあげた。
子どもたちの一部はすでに動いていたようで、大人の声が、がやがやと聞こえてきた。リックも咳き込み、水を吐き出そうとしている。
「よかった……」
きっとなんとかなる……そう思った。すると急に川に飛び込んだ反動が体を襲った。ふらふらとリリアは岸辺にあがったが、同時に体勢を崩す。
「お姉ちゃんっ……!」
子どもたちの声が響く。あわあわする子どもたちに大丈夫よと言う余裕はなかった。そのくせ、こんなときなのに、昔ルオネルに言われた言葉を思い出した。
「リリア、あなたは身を粉にして頑張ってしまう……無茶はよくありませんよ」
まさにそのとおりね……リリアは自重しながら倒れ込んだ。
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