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夜。満ち月と散り星が満天に広がる夜空の下。
さして広くもない村の広場に、さして多くもない村民が集まっていた。
がやがやとざわめくその前に、並び立つのはふたりの姿。星月よりも明るい白き衣を纏う光の魔女と、夜闇よりも暗い漆黒のローブを纏う弟子。魔女は微笑み顔で、弟子は無表情で、村民たちの様子をうかがっている。
そこへやってきた村長が、全員が集まったとの報告した。光の魔女がゆっくりと頷く。
「天気よし。頃よし。やる気よし。それでは始めましょうか」
「いつも思うんですが、私って必要ですか?」
「もちろんよ。ささ、早く」
背を押された弟子が、ひとつ咳払いをしてから、
「皆様、お待たせしました。これより光の魔女様の、光の祭典を執り行ないます」
一切の起伏がない平坦な声で、祭典の始まりを告げた。
その姿に、村民たちは反応に困り互いに顔を見合わせる。
「では、魔女様」
「相変わらずねぇ、もう少し楽しそうに、ね?」
「努力してます」
弟子と入れ替わり、光の魔女が村民たちの前に立ち、
「さぁ、始めましょう。私の魔法、どうか心ゆくまでご堪能を」
両手を大きく広げ、声高らかに宣言する。
その姿に、村民たちから拍手と喝采が巻き起こる。
しばらくして、光の魔女はそれを手で制し、そのまま胸の前で祈るように両手を組んだ。
その場の全員が食い入るように見つめる中、光の魔女の両手の内が光り始め――
「光よ!」
舞い上げられた魔女の手から、無数の光の粒が、宙空へ向けて振りまかれた。
歓声が沸く。
光の粒たちは夜空を駆ける流れ星のごとく、広場を、村民たちのまわりを巡り廻る。
男が声を上げ、女が笑い、老人が感嘆し、子どもが走って追いかける。
その様子をしばらく眺めてから、光の魔女は両手を空へと突き出し――
「月よ!」
魔女の手先に、円に並んだ七つの光球が現れた。
光球はくるりくるりと回りながら上昇していく。その途中で、それぞれが上弦、三日月、十六夜、新月などを形作る。
そうして、あらゆる満ち欠けを象った形作った月たちが、本物の満月のまわりをぐるりと囲み、偽りの月光で村を照らした。
一夜にすべての月が浮かぶ幻想的な夜空に、またも歓声が沸く。
まぶしげに目を細めて眺める者、指を差して笑う者、うっとりとしてため息を漏らす者。
その様子をしばらく眺めてから、光の魔女は月へ向けて手を伸ばし――
「虹よ!」
その声とともに七つの月は満ち、夜空に整然と列を成した。
月たちの色が変化する。赤から紫まで、それぞれの月が虹の色を成す。
魔女が伸ばした手を大きく振るう。
七色の月が空を駆ける。その軌跡に鮮やかな虹が描かれる。
星月と虹がともに浮かぶ超自然の夜空に、より大きな歓声が沸く。
大口を開けて見惚れる者、駆ける光を目で追う者、ただただ感嘆して拍手する者。
その様子をしばらく眺めてから、光の魔女は両手をかざし――。
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