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「今夜に終わってよかったわねぇ。これで明日には帰れるわ」
「やっぱりそういうことですか」
村長宅の2階、宿泊用としてあてがわれた部屋に、祭典を終えた光の魔女と弟子がいる。
「だって、ご飯はまずいしお風呂はないし、ベッドなんてこれよ?」
マットも何もない、剥き出しの木で組まれただけの粗末なベッドを、光の魔女がぽんぽんと叩いた。
「声を落としてください。聞こえます」
1階には、村長とその夫人がまだ起きている気配がする。こんなボロ屋では、床を抜けて声が聞こえてしまいかねない。
「あら。正直に、じゃなかったの?」
いたずらっぽくクスリと笑い、少しだけ声を潜める魔女。
「今のは正直すぎます」
対する弟子は、いつもと変わらぬ仏頂面のままだ。
「ああ、早く帰りたいわ。帰ったらまずは温かいお風呂に入って、綺麗な服に着替えて、それから何か美味しい物を作ってね。そうねぇ、魚がいいな。果物も食べたい」
「はいはい」
面倒くさそうに答え、弟子は自分のベッドの上に横になる。
「あら、もう寝ちゃうの? もう少しお話ししましょうよ」
「早く帰りたいのでしょう。それなら早寝早起きして朝一番に出発した方がよろしいのでは?」
魔女の方を見もせずに答える弟子に、光の魔女はぽんと手を叩く。
「それもそうね。さすが私の弟子。そうと決まればおやすみなさい。よい夢を」
光の魔女がそう言ったときには、弟子は既に寝息を立てていた。
その背を見て、光の魔女は感心した様子でため息をつく。
「すごいわねぇ。よくこんな――ああ、いけないいけない。でも硬いわねぇ。眠れるかしら」
しばらくの間、光の魔女のぼやく独り言が部屋に響いていた。
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