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翌朝。
帰り支度を整え、1階へ降りたふたりが見たのは、何やら様子のおかしい村長だった。
テーブルに置かれた紙に目を落としながら、ひとりでうんうんと唸っている。
何事かと、ふたりは顔を見合わせた。光の魔女が村長へ声をかける。
「おはようございます」
はっと顔を上げ、ふたりの方を見る村長。
「おお、おはようございます。昨夜はありがとうございました」
その顔に作り笑いを浮かべながら、村長が深々と頭を下げる。
「いえいえ。お気遣いなく。それよりも、どうかなさいましたか?」
光の魔女の言葉に、村長は話すべきか否かと迷う素振りを見せ、
「実は今朝早く、その紙が村の入口に貼られているのを、村の者が見つけまして」
意を決したようにテーブルの紙を手に取り、ふたりへと見せた。
「まぁ、これは」
それは、盗賊団の襲撃予告だった。
――今日の正午、地図の場所に金目のものと食料をありったけ持ってくること。
――従えば、村は襲わない。
――従わなければ、力づくで何もかも奪い取る。
乱雑な字で書かれた内容はそれだけ。残るは、内容に比べれば詳しくしっかりと描かれた地図と、脅し目的で書かれたであろう盗賊団の名前のみ。
「どうしたものかと、困っておりまして。まさか魔女様がおられるときにこのようなものが」
心底困り果てた様子で、村長が渋い顔をする。
「盗賊団の名前、知っている?」
「お待ちを」
弟子がこめかみに指を当て、目を瞑ってじっと何かを考え込む。それも束の間、弟子は目を開けると、光の魔女へ顔を向ける。
「ありました。最後に目撃された時の規模は八十人ほど。決まった拠点を持たず、各地を放浪しつつ略奪しているようです」
「賞金は?」
「頭領にかけられています」
光の魔女が、弟子から村長へ視線を移す。
「八十の賊に襲われて、対抗できますか?」
「そんな無茶な、この村で戦いの心得がある者などほとんどおりません」
「街の警備隊は?」
「どれだけ急いでも二日はかかります。今日の正午までなど、とても」
「そうですか」
そこで議論は途切れ、村長はしばらく黙り込んでいたが、
「仕方ありません。この上は要求に従うほかありません」
諦めたように力なく告げた。
「魔女様方は、何か起こる前に早くお帰りください」
光の魔女を心の底から崇拝しているのだろう、これ以上ないほどの心配顔でその身を案じる村長。
それに、光の魔女は慈愛に満ちた笑顔で応えた。
「その必要はありませんわ」
「――魔女様」
冷ややかな弟子の声に、しかし光の魔女は構わず続ける。
「私が行って、彼らを説得しましょう」
「そんな、とんでもない。魔女様の身に何かあっては」
あわあわと手を振る村長に、光の魔女は胸を張って答える。
「ご心配なく。賊に身を落としたとはいえ彼らも人の子。慈愛と真心を持って話し合えばきっとわかってくれますよ」
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