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茜色の空へ
「テツ。あんた、ちと大きなりすぎたなぁ。旅をするのんはええが、これでは目立ちすぎるで」
多々羅は呆れたように呟いた。
「なぁに。鬼の力を吸い込みすぎただけや。使うたら萎む」
テツは事もなげにそう言うと、屈んで多々羅の両の目に指を当てて力を注ぎこんだ。
多々羅は目の奥にじんわりとほの温かいものが流れ込んでくるのを感じた。
「どうじゃ? 見えるか?」
多々羅はそっと目を開く。
真っ先に飛び込んできたのはニコニコと多々羅の顔を覗き込むテツの顔だった。
「ああ……よう見える。テツは男前じゃ。おそらく多江に似たんじゃな」
世界は夕日に照らされ茜色に輝いていた。
「多々羅。あれ」
「ありゃあ、夕日じゃ」
「あれがええ。多々羅の色はあの色じゃ。暖かおして、懐かしおして、優しい色じゃ」
『多々羅の色はワシが決める。ワシが一番ええと思った色を、多々羅の色にしよう』
そういえば逃亡中テツはそんなことを言っておったなと多々羅は思い当たった。
「ワシの色は茜色か。悪ないな」
多々羅は青年の姿に落ち着いたテツの手を握り、茜色の空に向かって歩き出した。
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