【Kindle Unlimited配信中✨】殺し屋の初めての殺意【サンプル】

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「あ、そうだな。交換しよう。せっかく再会できたわけだし、よかったらまたゆっくり食事でもしよう」  携帯電話を取り出しながら、白々しい言葉を連ねる。 「……俺は仕事がフリーで休みの融通がきく。だから白月の都合のいい日をまた教えてくれ」  ニコリともせず無表情で加賀井が言う。しかしだからこそ「また」が社交辞令の類でないことがよく分かった。 「へぇ、フリーか。……何の仕事?」  話の流れ上、訊かないのも不自然な気がして、白々しさが言葉の端々に滲まないよう平静を装って訊いたが、その平静さすらすでに白々しい気がした。  加賀井は、嘘ひとつ分の間を置いて答えた。 「ウェブデザインとかライターとかいろいろ……」  曖昧な答えだが、少なくとも表情など目に見える部分では、加賀井の方が嘘が上手だった。なにも知らなければ誰もがその言葉に疑いを持つことはないだろう。 「へぇ、なんか今時の仕事でかっこいいな。それじゃあ、また連絡する」  連絡先の交換を終えると、白月は軽く手を挙げて、今度こそ立ち去った。  店を出てから、白月は足早に駅の方へ向かった。駅が見えるところまで来た頃には、逃げるような全力疾走になっていた。  駅前の自動販売機で水を買ってから、近くのベンチに腰をドッと下ろした。少しだけ水を口に含んで、大きくため息を漏らす。  何とか表面上はヘマをせずうまくやることができた、とホッと胸をなでおろす。だが、達成感と同じくらい、いやそれ以上の罪悪感が胸に影を落とす。  これから加賀井と会えば会うほどこの罪悪感が大きくなると思うと、憂鬱なため息が口から零れた。  ****  加賀井と食事の約束をしたのは、あの仕組まれたの再会から五日後のことだった。もちろん、伊巻の指示である。白月の仕事の後、駅で待ち合わせとなっているが、すでに仕事は辞めていたので、時間ギリギリまでアパートで時間を潰し、それからしばらくクローゼットで眠っていたスーツに袖を通して駅に向かった。  電車に乗って、窓ガラスに映る自分の顔を見る。仕事はしていないが、前日から緊張で張り詰めていた白月の顔は、仕事後といっても差し支えないほどには疲労が滲んでいた。
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