【Kindle Unlimited配信中✨】殺し屋の初めての殺意【サンプル】

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「意外だな。絶対いると思った」 「どうして?」 「そりゃあそんだけ格好良かったら周りがほっとかないだろ」  嘘だらけの会話の中、この言葉は本心だった。  加賀井の顔をあらためてじっくり見る。端整な顔立ちは危ういほどの繊細さがあり、どこをとっても精巧な作り物に見えてしまうほどだが、体つきは殺し屋を生業としているためか、線の細さに反して意外にもしっかりと筋肉がついており、肌の色も浅黒い。顔は王子様のように甘いのに、体は男らしいといういかにも女性が好みそうな見た目だ。恋愛において外見が全てというわけではないが、少なくとも彼の無愛想さを補ってなお余りある魅力であることは確かだろう。 「好きでもない奴に寄りつかれても面倒だ。ほっといてくれた方がいい」  眉間に皺を寄せて加賀井が苦々しく呟いた。モテない男からしたら嫌み以外の何ものでもない台詞だが、不思議と嫌みに聞こえなかった。彼の表情から女性に好意を寄せられるのは思いの外面倒なことだということがひしひしと伝わってきたからかもしれない。 「ははは、モテるのも大変だな。でも好きな人なら寄りつかれてもいいんだ?」 「それは当然だろ」  真顔で即答され、白月は少し戸惑った。今までの会話で何となく加賀井宗親という人間は、人との関わりが面倒で、たとえ好意であろうとも他者から寄せられる感情を鬱陶しく思うタイプだと思っていたので、この返答は意外だった。 「へぇ、そうなんだ。ちなみに加賀井は好きなタイプはどんな感じ?」  心持ち身を乗り出すようにしながら訊いた。いかにも興味があるという風に。本当は触れたくない話題だが、これも伊巻から命じられた今日のミッションだ。訊かないわけにいかない。  伊巻曰く「告白する前に、相手に今付き合っている人がいるか、好きなタイプはどんなのか、この二つを訊くのは恋する人間なら当然のことでしょう?」とのことだった。確かに事前にそういう探りを入れていた方が、告白の信憑性が増すだろう。それは分かっているが、しかしいざ訊こうとすると、加賀井が買った男たちと自分の特徴が合致した時の、あのおぞましく不気味な戦慄が脳裏を過ぎり、開きかけた唇を閉じてしまうのだった。
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