【Kindle Unlimited配信中✨】殺し屋の初めての殺意【サンプル】

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「ずっと……ずっと好きなままだ。だから俺の好きなタイプはその人ひとりだけだ」  鋭い眼差しを向けられたまま寄越されるその言葉は、表面上は愛の告白の体をなしているが、それにしては随分重く暗い。恨み言を連ねるようかのな陰鬱な気配が言葉の端々に漂っている。この報われない想いの責任を取れ、と暗に言われているような気さえした。 「……それは、とても一途だな」  曖昧に笑って愚鈍を装い、加賀井の求愛とも恨み言ともつかない言葉をかわした。この恐ろしいほどの一途さが、自分に向けられているのかと思うと、胃の底がぐにゃりとよじれた。まるで彼の奢りである食事の消化を本能的に拒むようだった。 「白月はどんなタイプが好きなんだ?」  眼差しから陰鬱な気配を消して加賀井が訊いてきた。会話の流れから見れば普通の流れだが、会話がほぼ成り立たない男から珍しく質問を寄越され白月は少し驚いた。しかし質問自体は想定内のものだ。というより伊巻から答えを考えておけと言われた質問だ。あらかじめ準備していた言葉を舌にのせるだけなのに、さっきの加賀井の言葉を思い出すと躊躇うように舌の先が震えた。 「……俺は、物静かなタイプが好きだな」  伊巻曰く、好きなタイプを相手に近いものを挙げ自分の好意をじわりと感じさせろとのことだった。もう少し何かいい言葉があったかもしれないが、加賀井の性格を好意的に表す言葉が「物静か」しか出てこなかった。 「ふぅん、物静か、か……」  苦し紛れに絞り出した白月の言葉を加賀井が静かな声でなぞった。白月のタイプが自分の性格と一致していることに喜ぶどころか、気づいているのかさえ怪しい反応だった。伊巻の思惑には沿えない結果となったが、白月としてはその薄い反応にほっとした。もし、白月が言った好みのタイプが自分と重なると気づいたら、あのおどろおどろしい執着ともいえる一途さを加速させてしまうに違いないと思ったからだ。 「……意外だな。俺はてっきり賑やかな奴がタイプなのかと思っていた」  鼓動が跳ねた。彼の言う通り、自分はあまり話し上手ではないのでどちらかと言えば静かなタイプより、話が上手なタイプの方が好みだ。瑠璃も話し上手だったことを思い出し、苦笑になりそこねた苦いものが胸に滲んだ。 「確かに賑やかな人もいいけど、でも口数が多い人ってなんか信用できないんだよな」
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