【Kindle Unlimited配信中✨】殺し屋の初めての殺意【サンプル】

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 そう言うと、加賀井は立ち上がりそのまま部屋を後にした。一人きりになったことで少しだけほっとする。もう一眠りしようと横になったが、体のべたつきが気になって眠れない。面倒だったが仕方なく起き上がり浴室へ向かった。  服を脱ぎシャワーを浴びる。浴室が広い上に壁には大きな鏡が取り付けられていて何となく落ち着かない。シャワーを止め、鏡に映る自分を見る。首筋や鎖骨などを念入りに確認するが、水が滴る体に特段変わったところはない。やはりあれは加賀井の好意を過敏に恐れる気持ちが見せた夢なのだろう。自分の事ながら、自意識過剰っぷりに失笑とも溜め息ともつかない乾いた息が漏れた。  肌のべたつきを軽くシャワーで洗い流し、白月は洗面台の前で髪を乾かした。シャワーを浴びてだいぶすっきりしたが、ドライヤーの唸る音を聞きながら鏡に映る顔色の悪い自分を見ていると、不意に目眩がしてふらりとよろけた。倒れることはなかったが、そのはずみで足元のゴミ箱を蹴ってしまい、ゴミが床に散乱した。ゴミの量は多くはないものの、磨き上げられた床を汚してはいけないと慌てて拾い集めた。大半はティッシュだったが、その中にあるものの姿を認め白月は手を止めた。いや、固まったと言った方が正しいのかもしれない。現に、動かそうとしても手は固まったまま空で止まって動かない。  ごくりと唾を飲み込んだ。こわばった白月の視線の先には、薄いピンク色のコンドームがぐったりと横たわっている。しかも使用済みのもので、中に精液が残っていた。端がぎゅっと結ばれているので臭いこそしないものの、それでも反射的に吐き気を覚える。  自分のものではないとなれば、誰のものかは明白だ。ホテル側の不備で前の客のゴミが回収できていなかった、という可能性がないわけではないが、加賀井のものとみてまず間違いないだろう。  胸元や首筋に、夢だと思っていた感触が戦慄を伴って蘇る。不意打ちをくらったように鼓動と呼吸が乱れる。  ――あれは夢じゃなかったのか?  しかしたとえ夢だったとしても、どんな悪夢より最悪な目の前のものは、確実に現実だ。  カチャ、と浴室のドアを隔てた向こうでロックが解除される音がした。加賀井が戻ってきたのだ。慌てて落ちているコンドームをゴミ箱に捨てようとしたが、あまりのおぞましさに手がそれを拒む。  コンコン、とノックが浴室内に響いて、心臓が跳び上がった。
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