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「白月? 大丈夫か」
ドア越しに加賀井が尋ねる。目の前には精液入りのコンドーム、背後には加賀井。挟み討ちにあった気分になる。
「あ、ああ、大丈夫。シャワーを浴びたらだいぶすっきりした」
震える舌を何とか動かして返事をする。
「それならよかった。チェックアウトの時間、一応延ばそうか」
「い、いや、いい。もう十分休ませてもらったし、あとは自分の家でゆっくりさせてもらうよ」
白月は慌てて首を横に振った。本当は目の前のコンドームのせいで吐き気がぶり返していたが、それよりも早くここから、加賀井の前から逃げ出したい気持ちの方が強かった。
「そうか、わかった」
白月の答えを聞くと、加賀井の気配がドアから遠のいた。白月はそっと息を吐いた。そして大きく深呼吸すると、床に転がるコンドームをタオルで掴んでゴミ箱に投げ捨てた。タオル越しでもコンドームや精液の感触が伝わってきたような気がして、一層胃の底がざわついた。
今、部屋に戻っても加賀井と普通に話せる気がしなかった。時間を潰すためと、手にこびりついた嫌な感触を洗い流すため、白月は再びシャワーを浴びることにした。
シャワーの音が加賀井の気配を遮断してくれているのに、頭の中は加賀井のことでいっぱいだった。
****
今日、加賀井に告白する。
加賀井との待ち合わせ場所に向かう間、心の中で何度も呟いた。まるで女子学生の内に秘める甘い決意めいた言葉のようだが、残念ながらこれは伊巻から下された決定事項で、そこに甘さは微塵もない。
加賀井と会うのはこれで四回目だ。知り合いに映画のチケットを貰った、というベタな口実で白月から誘った。無論、映画のチケットは伊巻から今日の任務と共に渡されたものだ。
白月の心は複雑だった。もちろん心を占めるのは告白という不慣れな行為に対する緊張が大半だが、この告白で全てが終わるかもしれないという期待も微かにあった。
伊巻との契約では、たとえ今日の告白で振られたとしても一千五百万円はもらえることになっている。そうなれば、自分の借金返済に多少の目処はつくし、今後加賀井を殺すことに間接的ではあれ関わることもなくなるのだ。
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