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しかしそんな淡い期待を一蹴するように、先日のホテルでの記憶が戦慄と共に蘇る。白月はその度に頭を振って、ひたすら自分が加賀井に振られるイメージを頭の中で何度も何度も繰り返し想像した。
「白月はあんまり恋愛映画好きじゃないのか?」
映画を観た後、遅い夕食として寄った映画館横のレストランで、加賀井が珍しく話を振ってきた。普段なら話題に困っているのでありがたいことだが、嘘の告白を目前としている白月にとって、今は恋愛に関する話は避けたかった。
「そうだな、あんまり好きじゃない」
そう言って、オムライスを口に運んだ。デミグラスソースとケチャップライス、どちらも味が濃すぎて舌が重くなる。
「やっぱり。映画の間、ずっと退屈そうだったもんな」
加賀井が微かに笑った。まさか見られているとは思わず驚く。それと同時に、映画の間見られていたことに何となく気味の悪さを感じた。
それを誤魔化すように白月は笑って頭を掻いた。
「ははは、見られてたか。誘っといてなんだけど、個人的にはアクションとかSFとかの方が好きなんだよな」
「どうして?」
珍しく質問を重ねられ、白月は戸惑った。加賀井の目が単なる会話にしては真剣味を帯びていたからだ。何かを探ろうとする気配すら感じる。
白月は落ち着けと自分に言い聞かせながら答えた。
「そうだなぁ、アクションとかSF映画の方が主人公たちに感情移入できるからかな」
「なるほどな。でも恋愛映画の方が身近で感情移入できそうじゃないか?」
「身近だからこそだよ」
さらっと受け流して早くこの話題を切り上げようと思っていたのに、気づけば声に力が入ってしまった。しまった、と思ったが、一度出した言葉は戻らない。仕方なく白月は平静を装って話を続けた。
「身近なはずなのに、自分には当てはまらないことだらけで違和感を覚えるんだ」
その違和感が自分の欠陥にすら思えて、胸の中に苦い気持ちが広がる。加賀井からは相槌も共感もなかった。だが、少し間を置いて再び加賀井が口を開いた。
「白月は好きな人とかいないのか?」
いないと正直に答えそうになって、慌てて「……いる」と答えた。詳しく訊かれると面倒なので、畳みかけるようにして続けた。
「でも、映画のように愛し愛されっていうのは経験はないな。だから共感ができない」
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