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「実は、お店を借りるのに保証人が必要なの。本当なら親とか親戚に頼みたいんだけど……」
瑠璃は言い淀んだ。一度、彼女に話を聞いたことはあるが、家族との関係はあまりいいものではなかった。家を出て十年以上、顔を合わせるどころか連絡さえとっていないことから、家族との間に出来た溝がどれだけ深いものか想像に難くない。彼女に頼れる人間はいなかった。白月一人を除いては……。
「俺がなるよ」
気づけば白月はそう答えていた。
この判断が、地獄の始まりになることも知らずに……。
****
保証人のサインをした日から、しばらくして瑠璃と連絡が取れなくなった。嫌な予感がして彼女の家に向かえば、そこはもぬけの殻だった。それでも白月は自分が騙されたという事実に気づかず、彼女の身に何かあったのではと心配したほどだった。
瑠璃の失踪後、いかにもヤクザ者といった風の男たちが白月の元に押しかけてきて、彼女が借りていた三千万円の返済を要求してきた。瑠璃は、開業資金として不動産の紹介する金融会社から借金をしており、サインした書類を確認すると、保証人はその借金も含め連帯保証しなくてはならないというものであった。
白月は男たちの恫喝の声に取り囲まれて初めて、自分が騙されたことに気づいた。
それからは坂道を転がり落ちるように地獄の日々が続いた。取り立ては日に日に執拗さと苛烈さが増していった。ついには取り立て屋が会社にまで乗り込んできたのだ。この一件で、会社に借金のことが露見してしまい、元々居場所のない職場だったが、さらに居づらくなってしまった。結局、上からの遠回しな勧告もあり会社を辞めざるを得なくなった。
辞表を会社に出してから、白月はあてもなく駅から少し離れた商店街を歩いた。家に帰ったところで取り立てがやって来るのだ。取り立てから逃げる勇気はないが、少しくらいの避難なら許されるだろう。
アーケードの天窓から降る昼の光は、シャッターが降ろされた店がちらほらと点在する廃れた商店街を幾分明るく見せていた。しかし、 絶望的な白月の心を照らすまでの力はなく、むしろその健全な眩しさは益々白月の心を絶望の淵へと追いやった。
暗く重い溜め息を吐こうとした時、
「ちょっとよろしいかしら?」
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