【Kindle Unlimited配信中✨】殺し屋の初めての殺意【サンプル】

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 マイナーな映画ばかりを取り扱っている小さな映画館だったため、駅から少し離れている上、夜遅いということもあり人通りが少ない。店はほとんど閉まっていて、少し離れた大通りから車の音が風に乗ってくるくらいで、白月たちが歩く道はほぼ静寂だった。  普段なら会話の糸口になるものがないこの状況に困ってしまっていただろうが、今日は違った。  告白をするなら今しかない。なのに、好き、というたった二文字を伝えることを考えるだけで、心臓が激しく鼓動を打った。  しかしこの機会を逃してしまえば、人の多い駅で告白をするか、告白せず伊巻に黒い笑みで責め立てられるかのどちらかになってしまう。それだけは避けたい。  白月は汗で湿った拳をぎゅっと握りしめ、歩みを止めた。 「……どうした?」  加賀井が振り返った。鼓動がさらに速くなる。 「あのさ……」  唾を飲み込み乾いた喉を湿らせる。 「すっごく迷惑かもしれないけど、実は俺、加賀井のことがずっと好きだったんだ」  下を向いて早口で言った。大通りを大型のトラックが通ったようで、重く唸るような音が二人の間を横切った。 「……え」  加賀井の口から零れた声が、トラックの音で聞こえなかったからなのか、困惑によるためなのかは分からなかったが、早くこの場から逃げ出したい一心で畳みかけるように続けた。 「急に男の俺にこんなこと言われても困るかもしれないけど、もし嫌じゃなかったら付き合って欲しい」  交際を申し込みながら、どうか断ってくれと祈る。こんなにも不誠実極まりない告白なんてきっと他にないだろう。どうか断ってくれと祈るこの気持ちこそ自分の中に残された唯一の誠実さなのだから。きっと女を金づるとしか見ていないホストの愛の囁きの方がまだだいぶマシかもしれない。  突然の告白にいつも無表情の加賀井もさすがに目を見開いて固まっていた。当然の反応だ。そのことに内心ほっとした。この驚き様は少なくとも同じ男に告白されるなんて想像すらしていないからではないのか。となると、伊巻の、彼が同性愛者であり、自分に好意を寄せている見立ては外れていることになる。そうであれば、自分は彼女の復讐劇に無用となる。千五百万円を手に入れてこの気まずさと罪悪感から解放されるのだ。
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