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 十二月、冬。最近、雪が降り始めた。赤色の傘に雪の白が映える。  近年、暖冬で雪があまり降らない年が続いていた。しかし、今年は大雪が予報されているみたいだ。天気予報のマークはほとんど雪だるまで埋め尽くされている。  制服のスカートに靴下を履くだけではとても寒くて厳しい。だから、黒のタイツを毎日履いている。  私は相変わらず、傘と話している。あの傘は口を開けば、のしかかる雪が重いだとか、あそこの便所は臭いからもう入るなよとか、そういうことばかりしか言わない。  今朝、母と軽い口論になった。  雪の日は徒歩だと危ないし、除雪されていないところもあるから、もしかしたら遅刻するかもしれないよ、と母に言われた。それでも私は徒歩で行けるから大丈夫、と母を半ば無視するように家から出ようとしたが、母は私の腕をつかんで行動に比例しない弱い声で、今日は一段と寒いって言うし、と歯切れの悪い感じで私を引き留めようとしたのだ。そんな様子の母を見るのは初めてだった。私はわかった、と言って母の準備が終わるまでリビングのソファで座っていた。 「なんでだと思う」 「次は母親のことか。単純にお前のことをいろいろと心配しているだけだと思うがな。お前は前まで遅刻常習犯だし。天気は悪いし。こんな悪天候の中、楽に行けたほうがいいだろう」 「最近は遅刻していないし。雪を眺めながら踏みしめるのも良いと思わない」 「俺は傘だからわからないな」  最近、傘は都合が悪くなるとこうやって逃げる。傘だから、って万能だ。  他の人が歩いた轍を辿り続ける。並木道の木々は雪を被って寒そうだ。傘の先端を雪にずぼずぼと差しながら歩く。  今朝、学校に着いて車から降りる前に迎えはいいよ、と言った私に母はいつもの調子でわかったよ、と言った。家を出る前の母のあの様子はすっかり消えていた。いつもの母だった。 「ねえ、私受験を考えているの」 「ほお。この間は働くと言っていたが。気が変わったんだな」 「一年の時の担任に勧められて、私なりに考えてみた」  昨日のお昼休み、久しぶりに一年の時の担任と話した。私は図書室で本を読むこともせず、ただ本棚を眺めて時間をつぶしていた。そこへ図書司書さんに用事があり訪れた先生と偶然会ってしまった。  先生はわざとらしく私のことを二度見した。私はそれを無視して再び本棚を眺め続けていたが、用事を済ませた先生に話しかけられた。先生は、最近は真面目に通えているんだな、あんまり担任を困らせるなよ、と。私は目も合わせず相槌を打つ。進路はどうするんだ。そう聞かれて、はっと目を合わせてしまった。 「一応就職、ですかね」 「そう。進学は特に考えてないんだ」  そうですね、と再び私は本棚に目を移す。
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