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 二年の冬。大半の生徒はどこの学校に進学するか、どこの企業に就職するか決まっている。私はおおざっぱなイメージしか頭になかった。  母は私の進路に対して何か意見を言うことはなかった。私が決めたことなら。そういう考え方だ。私は特にしたい勉強はなかったし、この学校の生徒の約半数は就職だから消去法で就職を選択していた。 「就職も良いと思うけどさ、宮崎は座学の成績は良いから大学とか短大に行って世界を広げるのも一つの方法じゃないかな。なんとなく宮崎には特にそう思うよ」  私が返事の言葉を考えていると、先生は私に背中を向けて歩き始めた。進路のためにはもう遅刻できないな、そう言って先生は図書室から出て行った。 「『世界を広げる』っていうところに惹かれたのかも」 「お前にしては一丁前に自分のことを話せるじゃないか」  この傘は私のことを何だと思っていたのか。口調から馬鹿にして面白がっているんだろうということはわかっていたけれど。  先生が図書室を出て行った後に気が付いた。母が私を心配していた朝のあの様子の理由は、きっと私が学校のことについて母に何も話していなかったからだ。  普段の学校のことについても話さない娘。遅刻が多いと指摘を受けた娘。最近は学校に毎日通っているのか担任からの連絡は来ない。進路のことを話そうとしない娘。  私が高校受験を控えていた中学三年生の時もそうだった。私は母に何も言っていなかった。なんとなくあそこの高校でいいかな、それくらいに思っていて、実際に口に出したのは夏休みに入る前の三者面談だった。  並木道を抜けると、真っ白い田んぼの絨毯がどこまでも広がっている。毎年見ている光景だけど、いつ見てもため息が出るほど壮観だと思う。 「お母さん、心配していた。私のことを」  母はいわゆる『放任主義』と呼ばれる育て方なのか、あれをしなさい、これにしなさい、とうるさく言う人ではない。私に提案はしてくることはあってもそれを強要することはない。私はそれを「あまり興味がない」と勝手に解釈していた。 「そうだろうな。しかし、進路以外にも心配しなきゃいけないことは山ほどあるな。お前の母親は大変だ」  ここ半年の母の言動でそれが間違っていたことだと気が付いた。 「真面目に通っているって今日言われたし」 「そういえば友達はどうなったんだ」 「やっぱり難しいよ。友達がいる人はすごいね」  雪が積もっている田んぼの道は端を歩くと危ない、と幼い頃から言われていた。うっかりすると用水路にはまってしまうからだ。今はそれを意識せずとも自然と道の中央を歩く。雪を踏みしめる自分の足を眺めながら。 「進路のこと話さないと。お母さんに」 「ああ。そうだな」
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