失恋した相手が結婚したその日、僕の人生は大きく変化する

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『たら、れば』の話をいま考えたところでどうしようもないことは分かっている。それに結局、あいつはその時別れたと噂された彼女と、今日こうして結婚式を挙げているではないか。 だけど・・・。 一瞬胸が締め付けられた。でもそれは本当に一瞬のこと。きゅっとなった胸の痛みは昨夜の甘やかな痛みを思い出させ、顔が熱くなる。 そう言えばあいつと話しても何ともなかった。それに、ここに来るまで全く思い出しもしなかった。 昨日まではあんなに苦しかったのに・・・。 あいつの結婚を知ってからずっと胸が苦しくて、それは朝も夜も関係なく僕を苦しめ眠れぬ夜を過した。なのに今日は・・・。 僕はずっと課長のことを考えている。 身体に残る課長の痕跡。 その手と舌で愛撫された身体はまだ敏感で、僅かなシャツの擦れでもじんと感じしまう。特に胸はまだ赤く腫れていて敏感だ。なるべく触れないようにしていても、不意に当たってしまうと無意識に声が出そうになって焦る。それに後孔は、何時間もかけて慣らされた上に課長の物をずっと飲み込んでいたせいで、まだ中に何かが入っているような感じが消えない。 課長のあの大きな物が、まだ僕の中で脈打ってるみたい。 がくがくする震えは治まったものの、身体はまだ重くてだるい。その疲労感も課長を思い出す。 神聖な結婚式の最中も、感動的な披露宴でも僕の頭から課長が消えてくれない。だから赤らむ顔を誤魔化すために飲んだワインは僕をほのかに酔わせ、さらにその後の二次会でもいつもより多く飲んでしまった。 「本当に大丈夫か?」 これから三次会に流れていこうとしている友人たちだけれど、したたかに酔ってしまった僕はそれには参加せずに帰ることにした。そんな僕を心配した友人の1人が声をかけてくれる。だけど僕は笑って大丈夫だと答えた。 「タクシー拾うから大丈夫だよ」 おぼつかない足取りを心配して駅前まで送ってくれた友人にそう言うと、通りに面した植え込みの縁に腰掛ける。 「タクシーはオレが拾おうか?」 前の通りを通り過ぎるタクシーを見て言ってくれるけど、僕はそれを断った。 「大丈夫。ちょっと風に当たって休んでからにするから、もうみんなの所に行っていいよ」 いまタクシーに乗ったら確実に吐く自信がある。それが僕の顔から分かったのか、友人は最後に『何かあったら連絡しろよ』と言ってみんなのところに戻って行った。 それにバイバイと手を振って見送ると、僕はようやく貼り付けていた笑顔を取った。 疲れた・・・。 別にこの作り笑顔は新郎を思っての辛い心を隠す為ではなく、疲労困憊した体調を隠すためのものだ。人生で初めてと言っていいほどの激しい運動を、しかも長時間に渡って行った結果、身体中の関節が悲鳴をあげ、筋肉痛に陥ったのだ。 一人になって、僕は大きく息を吐いて身体の力を抜いた。 晴れの日に辛い顔なんて見せられないし、みんなに心配もかけたくない。 今日の僕、本当によく頑張った。 僕は思わず自分を褒めてしまう。 だけど身体が辛かっただけで、心も辛かったわけじゃない。本当に昨日までのあの思いはなんだったのだろうと言うくらい心は晴れやかで、心から2人を祝福できた。多少心のわだかまりはあったけれど、それも心を掠めた程度。その後は本当に楽しく過ごすことが出来た。 これもみんな課長のおかげだ。 忘れられない初恋を、それ以上の強烈な体験で上書きしようと思った。その、僕が思う最も強烈な体験が誰かと交わること。それは今までの僕にとって無縁なことであり、興味もしてみたいとも思わなかったことだ。だから余計に僕にとっては辛い思いを消すのに十分なほどの大きな体験になり、その相手がもしよくない人で酷い扱いをされても、それはそれで叶わない初恋のために付いた心の傷をさらに上から抉られて、その辛さを忘れられると思ったんだ。 だけど僕の前に現れた課長はとても優しかった。
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