ホームズの罪咎

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ホームズの罪咎               「これは、事故ではない。殺人だ」 探偵がそう言い放つと、鶴見忍(つるみしのぶ)は、小刻みに肩を震わせた。その原因は、婚約者の西条抄子(さいじょうしょうこ)含め女性二名が亡くなったにも関わらず、無神経に現場を歩き回る探偵への怒りなのか、それとも真相が明らかになる期待なのか、忍にはわからなかった。ただ、探偵の取り巻きの刑事と、抄子の親族たちが息を吸う音だけが、耳の奥に響いていた。  今から2時間半前の17時ごろ、密室である喫煙室で女性二名が、夾竹桃の有毒ガスによる心停止で死亡する事件が、ここ西条家の屋敷で起こった。死亡した西条抄子の婚約者である忍は、明後日に開かれる、忍と抄子の婚約パーティの準備のために、朝から西城家を訪れていた。  二時間前、忍さんには秘密だから、と言って物置を去った抄子の言葉が、忍にとって最期の言葉となった。抄子の言葉に振り向きもせずに、ああ、と頷いたことを今になって、猛烈に後悔する。  それから2時間後、段ボールを車に運ぶ忍のもとに駆け寄った抄子の母親が、切れ切れに忍に告げたのだ。抄子が喫煙室で倒れていた、抄子はもう助からないと。  忍は、抄子の母親と、駆け付けた警察官に付き添われ、抄子との再会を果たした。 抄子は、屋敷の喫煙室で、鳴海あおい(なるみあおい)と共に倒れていたそうだ。忍は、鳴海の姿を実際には目にしていない。というのも、鳴海はまだ息があり、この近くの大学病院に緊急搬送されたからだ。抄子も助かるのではないか、という忍の期待は、鑑識の言葉によって一蹴された。 「この女性はもう…。お気の毒ですが、すでに死亡しています。助かる見込みは零に等しいかと」 鑑識の遠慮がちな言葉に、忍は落胆の吐き口を見失い、単調に、そうですか、と答えただけだった。沈黙が続く中、刑事のもとに病院から連絡があった。鳴海も搬送中に死亡が確定した、と。  それから間もなくして、ぞろぞろと刑事が西条家に到着し、今に至る。  刑事や鑑識の話によると、煙草の火が花瓶に活けてあった夾竹桃に燃え移り、有毒ガスが発生したのではないか、とのことだった。喫煙室のドアが故障していたこともあり、出るに出られない状況だった、として密室の謎は片づけられた。  先ほど、「事故ではない」と告げた探偵は、刑事の知り合いのようだ。刑事と探偵の会話を聞いているに、何やら探偵が勝手に乗り込んだようだが、刑事も探偵の力を借りたいらしく、部外者の探偵が現場に立ち入ることを黙認している様子だ。  「これは、事故ではありません。殺人です」
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