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金縁の細い月が波間に漂っている。煌々としたリングは水中に淡い光を差し、辺りを灰明るく照らす。魚たちは浅い眠りに誘われながら、波の動きに身を任せて縁を周回する。
少し手を伸ばせば届きそうだ。
そう思い、ウルはゆっくりと回転しながら上昇した。夜の海は暗く、月明かりだけが唯一の光になる。日の落ちた海は同時に冷たく、肌に纏わりつく感覚が心地好い。身体が唯一、自由になる時間。
異変に気付いた小魚の群れが、静かに金のリングから逸れてゆく。ウルは海上に出る直前、脚に力を込めた。リングをくぐって海中から跳び上がると、さらに上空で大きな金の輪が輝いている。どうやったら、あの場所へ行けるのだろう。背面で海に戻ると、目の前に迫っていたリングは視界からはずれ、真っ暗な海が奥底へ広がる。
ウルは半回転して頭上に目を遣った。歪んだ光が水沫のひとつひとつに散りばめられ、海の面に吸いついては呆気なく消え失せる。しばらく眺めているうちに、海は平静を取り戻して穏やかになる。再び現れた金のリングは、きっとすぐそこだ。
今度はもっと近くまで跳びたいと、ウルは期待して身体を翻した。
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