人魚王子と運命の番

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 シエラは、男が何か言いかけたのも聞かずに、王宮へ向けて無我夢中で走り出す。脳震盪は油断大敵な症状だ。早急に殿医に診せた方がいい。  まだ少し不安定な足で走りながら横目に港を見ると、式典のために訪れた人魚族の王族の船が続々と港に入ってくるところだった。冷たい雨が、剥き出しの肌に降り注ぎ、風が吹くたびに寒くて仕方がない。  その主役はルイスと俺だというのに、俺は何をやっているんだろう。意図的ではないといえ、人間を誘惑して助けるなんて、これじゃまるで伝説の愚かな人魚姫じゃないか。  そう思いながらも、人一倍責任感の強いシエラは王宮に着くなり、服を着る間もなく専属の執事になったばかりのニコラスを呼んだ。 「シエラ様、どこへ行かれていたんですか。それに……お召し物はどうされたんです」  ニコラスはもう百年以上王宮に仕えている手練れの執事だ。シエラは、体中から水滴を滴らせながら真剣な表情でまくしたてた。 「俺のことは後だ。難破した人間の男が港の近くの岩場に寝ている。頭を強く打ったらしい。俺の部屋へ運び医者に診せてほしい」 「人間の男を……ですか」 「そうだ。俺のせいでそうなったんだ。どうか、急いでほしい」  ニコラスは堅実な執事だ。人間の男という部分に少々戸惑いを見せたが、後のことはすんなりと受け容れて衛兵を呼びつけると、てきぱきと指示を出して宮殿の外へ出て行った。
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