人魚王子と運命の番

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太古の昔、人間の上半身と魚の下半身を持つ〈人魚族〉は、世界中に君主国家を築き、独自の体系の下で豊かな暮らしを送っていた。 男の人魚は狩りに出て、女の人魚は竪琴や歌を奏で、国を守る。彼らの国は人間の国とは不可侵の契約を結び、陸には上がらず、海底に王宮と城下町を形成して暮らしていた。 美しい尾ひれを持った人魚族は、海の中の世界で、タコの半身を持ったタコ族やクラゲの半身を持ったクラゲ族などの〈魚族〉達を虐げ、自らを海の生態系の頂点と称し振る舞っていた。  しかしその奢りは増長し、ついに海の覇権のみでは飽き足らなくなった人魚族は、世界中で同時多発的に禁忌を冒し始める。  彼らは長年保たれていた不可侵の契約を破り、人間を襲ったのだ。特に女の人魚族は好奇心旺盛で、人間を弄ぶことを好んだという。彼女達は海から歌で人間を誘惑し、その美しさをもって破滅させ、それが発端となり世界中で戦が勃発し、秩序が崩壊した。  これが海を治めていた海神の怒りを買い、人魚族には厳罰が下されることとなった。海神の三叉槍の一突きで世界中の海温は急激に冷え、寒さに弱い女の人魚は絶滅し、残ったのは強く聡明だった王子とその周りの男達だけだった。
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