人魚王子と運命の番

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女を失い、種の根絶を待つだけだった人魚族に、海神は新たな繁殖法を授けた。  それこそが雄性先熟――プロタンドリーだ。  クマノミなどの魚は、全ての個体がオスとして生まれ、後に群れの中で最も大きな体を持つものがメスとなり、二番目に大きなものと交尾をして産卵して繁殖する。  この法則に則り、人魚族では最も優れた者が〈王子〉となり、次に優れた者と番になって妊娠する、という独自の繁殖法が築かれた。  さらに雄性先熟でできた次世代の人魚族は、陸にいる時は足で歩き、海にいる時は尾ひれで泳ぐ、水陸両用の体を持って生まれてきた。  これには人間との諍いをなくし、調和するように、との海神の願いが込められている。  雄性先熟により、分別のついた賢い遺伝子のみを残し、水陸両用の体により人間との親和性を高める。これこそが神が人魚族に与えた新たな契約であり、試練だった。 百年も経つと、この新しい契約こそが常識となり、雄性先熟の繁殖を土台とした生活の体系が完成した。 世界中の海に点在する宮殿で生まれた人魚族の子供は十五歳になると、決められた各地の宮殿へと赴き、王子候補生となる。 そして候補生の中で体に変化が現れ、周りに認められたものが王子と認められる。 王子が発情すると誘引フェロモンが発生するが、それは二番目に優秀な者にしか作用しない。つまり王子の番となる者は、王子のフェロモンに反応して発情することができるか、によって見極められることとなる。 そして成熟した王子と番が〈真の交合〉と呼ばれる交わりを果たした時、王子は子を孕むことができるのである。 これが、人魚族の罪と罰、そして太古から現在に至るまでの繁殖の歴史だ。
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