人魚王子と運命の番

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しかし依然として女の絶滅以来、人魚族の人口は下降の一途を辿り、今では人魚族の宮殿はこのシェルーザ宮を含め、世界に点在する十数か所のみとなっている。 というのも、人魚族は魚と違い、大量に卵を産むわけでなく、近親相姦は行わない。それ故、絶滅も時間の問題と叫ばれている。 だからこそ今日のような式典の折には、世界中の人魚族が駆けつけ、新たな番の誕生を盛大に祝う。 そして今夜、シエラは新しい王子であるルイスの番として、戴冠式と番任命式の中で正式に結ばれるのだ。 ルイスは、冷たさすら感じるほど賢く美しい青年で、まさに王子の座に相応しい人魚だ。彼が王子の兆候を訴えた時には、異論を唱える者はシエラを含め誰一人いなかった。 だからそのルイスに「僕の番は間違いなくシエラだ」と告げられた時は、あまりにも想定外で言葉を失った。ルイスとは時折言葉を交わすことはあったが、特別な感情を抱いたことは一度もなかったからだ。 しかしその日以降、シエラの体には異常が起き始めた。凄まじい眩暈や体の火照り。それは両親である故郷の王達に聞いていた発情と似通っており、シエラが番に選ばれたという事実を揺るがないものにした。 王子になれずとも、番に選ばれれば王族となり、贅沢な暮らしを送ることができる。 しかしシエラは、マーティンや他の候補生のように、王族や王座に執着をしたことは一度もなかった。むしろシエラが憧れるのは、自由に労働して家庭を築く人間の営みなのだ。 現在人魚族は、魚族を統べる存在として王宮を維持する以外に、社会的な役割を担っていない。王子や番になれなかった候補生の人魚族は、近衛兵や教育係、宮殿医などの役割を担い、王宮の中だけで二百年ほどの一生を終える。肉体労働がなどのきつい仕事は全て、依然として差別されている魚族の役目だ。 番を成さない人魚族に性欲や恋愛感情は湧かないため、特別な情に縛られて自分の魂を他人に捧げる人間を、愚かだと考える人魚は少なくない。小さな城の中だけで平和に過ごすことこそが、人魚族の幸せだと彼らは考えている。
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