人魚王子と運命の番

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人魚の王宮に出入りできるのは人魚族と魚族のみのため、人間が人魚族と関わるのは貿易や仕事の外注の時だけである。 しかし、人魚族の伝統的な生活を守るための費用は、宮殿一帯の人間と魚族が支払う税金で賄われており、それは当然、地域に暮らす人間の不満材料となっている。 人間と人魚族の不和、そして魚族に対して厳然としてある差別問題。シエラにはそれらを解消したいという、秘かだが壮大な夢があった。しかしルイスが王子である以上、番であれ、彼が賛同しない政治活動は行えない。 シエラは溜め息のつもりであぶくを吐きながら、目の前に打ち棄てられた三枚の石板に改めて目を落とした。 これじゃ、海神が先祖に与えた試練も意味ないな……。 シエラは人魚族の行く末を憂い、かつて栄華を極めた旧シェルーザ宮の遺跡で暮らした先祖に思いを馳せた。 すると生い茂る藻草の中で、何かが鈍い光を放つ。近寄って手に取るとそれは、ちょうど肩に担げるほどの、左右対称の形をした金の竪琴だった。真ん中にはシェルーザ宮の門にあしらわれているのと同じ、ホタテ貝の装飾が彫り込まれている。 これを操っていた人魚も、きっと冷たい海の中で死んでいったのだろう。 弔うような思いが湧き上がり、シエラはその竪琴を手に取り、今にも千切れそうな糸を指先で弾いてみた。 ポロン……ポロン……。 何百年、何千年の時を超え、人魚族の盛衰を伝えるような音色。その音に乗せてシエラは、とある旋律を口ずさんでいた。 「ララ……ララララ……ララーララー」
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