第4話 ふれあい

1/1

57人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

第4話 ふれあい

 握手券が同梱されたCDセットを手始めに100枚買うとして、 余ったCD本体をいかに売り捌こうか。 生憎、俺の家にはCDを再生できる機器がないのだ。 強いて言えば、朱色の他人から譲り受けた蓄音機が 脱衣所の床にめり込んでいるだけである。 「転売(ふれあい)は根絶が難しいから黙認されているよ!」 まさかの公式推奨。アイドルらしい専用の呼び方まであるとは。 それでは遠慮なく富士山の山頂からCDを縦に転がそう。 運良く買い手のもとまで届けば転売成立。これが本当の…… 「くだらないシャレはマナー違反。絶対にやめてね!」 ごめんなさい。公の場で叱られることほど情けないものはない。 コメント欄も俺へ向けられた罵詈雑言で盛況している。 急いで鎮火せねば。とりあえず消火器の元栓を外し、 中身を一滴残らず、配信に使用しているスマートフォンに吹き掛けた。 「……じゃあ、デスゲームを始め……  実は私、ロサンゼルスで忍者を8000人雇って……  うん、もう正気でいられない!……」 せっかく面白くなりそうなところだったのに。 スマートフォンは心肺蘇生の甲斐なく故障してしまった。 恐らく人工呼吸の回数が足りなかったか。 落胆する俺の足元で激しい水しぶきが絶えず飛び散る。 そうだ、鮭の産卵を忘れていた。 まずは川の水を粗方抜き取るべきか? いや、アロマセラピーで落ち着こう。 かぐわしい匂いを最大限取り込むため、 息を深く吸い、しばし止めて、ゆっくり意識を朦朧とさせていく。 撮影現場は三途の川へ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加