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第5話 順番待ち
三途の川は地獄の手前にある所為で忌避の対象となっているが、
実際に来てみると何ら他の川と変わりないじゃないか。
水温はいかがかな。渡るからには適温でないと。
湯煙が昇っていないことから、熱湯ではないらしい。
粘り気がほとんどないことから、納豆でもないらしい。
しかし、指を突っ込んで確かめるのはリスクが大きい。
もし中に15cm定規が潜んでいて、密かに川幅を測っていたら。
甲斐甲斐しくて目盛りも読めない。
三途の川の透明度は非常に高く、
川底で英単語帳を熱心に読み込んでいる吉村さんがはっきり映る。
よろしくない。勉強は伝説の男の余分である。
変に知識を付けて厄介な立ち回りをされては手が焼ける。
外はカリカリ、中はとろーり。紛れもない生焼けである。
弱火でじっくり焼かないからだ。人肉に失礼だぞ。
そんな真っ当な意見を貰った日には不貞寝する。
7時間後に起きて、17時間暇を潰したら二度寝する。
吉村さんはなぜ、わざわざ水中で勉学に励んでいるのだろうか。
恐る恐る上から覗いてみたところ、奴は隠れて漫画を楽しんでいた。
けしからん。光の屈折により不明瞭にしか確認できないのをいいことに、
英単語帳の上に漫画を乗せるなんて。
悪知恵を働かせるぐらいなら、全国の失業者を雇ってやってくれ。
「今まさにオンライン面接の最中だ。部外者は黙っていてくれ」
漫画を読んでいる思ったら、その上にタブレット端末を乗せ、
陰ながら雇用に努めていたとは。
よろしい。次は俺の番か。
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