第1話 督促ありき

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第1話 督促ありき

 双六 分解してヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ。 今日も「コケコッコー」という自分のいびきで目を覚ます。 体内目覚まし時計を内蔵した体に産んでくれたお母さん、 蟻が1,010,818,714匹。ありがとうとは言わないよ。 毎日とても煩わしいからね。全く子孝行者だよ。  朝日がやけに眩しい。 そう言えば、昨日カーテンを洗ってベランダに干したんだっけ。 いや、そもそも洗濯は老後になってからと決めていた。 年金をはたいて買った柔軟剤で、 防弾チョッキを液体並みに柔らかくする野望が俺にはある。 あぁ、窓ガラスの素材を凸レンズに変えたんだったな。 虫眼鏡の要領でカーテンは疾うに灰と化し、布団までもが焼け焦げている。 その下の床は辛うじてセーフ。 土壌が剥き出しになって、ミミズと挨拶を交わせるぐらいにはセーフだ。 重い腰を上げ、こんもり積もった灰の山に菊の花を一輪挿す。 綺麗だよ。お世辞だよ。 二礼二百手一礼。流石に200回もチョップをすると、灰も怒るかな。 礼儀で挟んでいるから大丈夫か。心配して損したぜ。  どうにかこうにか今月八度目の参拝を終えた。 俺の隣で左半身と右半身を分離させることで、 川の字で寝ている吉村さんを揺り起こす。 半径2kmの振り子運動に突入して間もなく、 奴の足元から激しい水しぶきが上がった。 踵の懐が好景気で潤ったか? 違う。鮭が遡上してきたんだ。 大漁祈願として、上の階に住む大家に家賃8万円を奉納する。 強制退去回避。
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