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Lime交換
「行ってきます」と誰もいない家に声をかけて玄関を出た。
いつもは高校へ向かう途中に中学校があるため雪白も一緒に家を出るが、今日はしなくてはいけないことがあるらしく、1人で行ってしまった。
お母さんもお父さんも毎日遅くまで仕事頑張ってくれてるしなぁ。
僕は雪白がいるから大丈夫だけど、やっぱり雪白は僕だけじゃ頼りなくて寂しいよな。
普段しっかりしてるから忘れやすいが、雪白はまだ中学3年生。
周りは親に頼っている時期だ。
「何とかできないかなぁ」
もしもう1人お兄ちゃんがいれば、また違ったんだろうか。
どうにもならないことを考えながら登校していると、もう学校が見えてきた。
玄関で靴を履き替えていると、後ろから声をかけられる。
「おはよ、春月ちゃん」
!?
誰だ…って、湊翔先輩か。
僕を春月ちゃんって呼ぶのは、先輩だけだもんね。
僕は後ろを振り返り、「湊翔先輩、おはようございます」と挨拶をした。
湊翔先輩がいるってことは、叶翔先輩もいるのかな…?
少し期待しながら辺りを見回すが、叶翔先輩らしき人はいない。
ガックリ肩を落とすと、クスクスと湊翔先輩が笑う声が聞こえた。
「春月ちゃん、叶翔探してるでしょ」
「なんでわかったんだって顔してる」
どうしてバレたんだと何も言えずにいると、湊翔先輩は僕が思っていることも見透かして言った。
「…湊翔先輩、僕の心読まないでくださいよ」
むぅっと不機嫌になると、先輩は笑う。
なんだかいつも笑われてる気がする。
まぁ、湊翔先輩が笑顔になるならそれでいいんだけどさっ。
「あー、おっかしい。春月ちゃんってほんと顔に出やすいよね」
「もうっ!からかわないでください!」
「はは、ごめんって。あ、叶翔ならまだ来てないよ。俺たち一緒に登校する訳じゃないからね〜。」
っていうか、叶翔は来ない日が多いよ。と付け加えて湊翔先輩は言った。
…そっか。
叶翔先輩は毎日学校に来るわけじゃないのか。
学校で会えるって思ってた分、ショックを受けた。
「まぁまぁ、そんなに目に見えて落ち込まないの。春月ちゃんが『会いたいから来て』って可愛くオネダリしたら、飛んでくるよアイツ」
「ふぁ」
僕は驚いて放心してしまった。
オネダリ…!?
そんなの出来るわけない!
まず、顔見て話すのもハードル高いのに!
うぅ、「おはようございます」の練習から始めなきゃ…。
「あ、もうそろそろ教室行かないとね。SHR遅れる。春月ちゃん、Limeやってる〜?」
Lime…あぁ、あのメッセージアプリか。
スタンプも可愛くて便利なやつ。
「はい!やってますよ」
「よし、俺と交換しよ。んで、後で叶翔も捕まえて交換しなよ」
「えぇ!いいんですか!?」
Limeの交換なんて、数人としかやっていない。
「いいのいいの。あ、俺の連絡先みんなにあげたりしないようにね。あんまり好きじゃないんだ。春月ちゃんは特別、ね?」
「はぃっ」
特別、と言って笑った先輩はすごく魅惑的で、ドキドキしてしまった。
あんまり好きじゃないって、Limeするのがかな?
あんまり連絡しない方がいいかもな。
それにしても…あれはやばい。みんな目がハートになっちゃうレベル。
だから声が裏返っても仕方ない。
…仕方ないんだよ!!
僕は誰に向けてかわからない言い訳をして、教室へ急いだ。
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