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〜叶翔side〜
椎名春月_____そいつは、不思議なやつだった。
襲われそうになっていたところを助けて以来、ずっと春月の事を考えてしまう。
今だってこんなにも首を長くして春月を待っているのだ。
……落ち着かねぇ。
まだ春月は来ねぇのか?
屋上からここまでってそんなに遠かったっけか…。
俺はキョロキョロと辺りを見渡すが、春月らしき人はいなかった。
代わりに「みて、叶翔さんだ。学校来てたんだね、珍しい」とか「ほんっと湊翔くんと顔そっくり。性格は全然違うのにね」とか俺の話をする声が聞こえた。
チッ。
俺がわざと聞こえるように舌打ちをすると、一気にシーンとなる。
「やば、もう行こ」とかなんとか言いながら去っていく奴ら。
お前らが話していたことは死ぬほどどうでもいいが、春月のことが心配だ。
あいつ、また他のやつに迫られたりしてねぇよな。
可愛いくせにぽやぽやしてるし、ほっとけねぇ。
ちったぁ危機感持てってんだ。
俺は春月が迫られて怯えてる所を想像するといてもたってもいられなくなって、迎えに行こうとした。
すると、息を切らせながらここまで走って来る春月が見える。
「おせーよ」
俺はそう言うと、寄りかかっていた壁から離れて3年の靴箱へ向かった。
靴を履き替えながら「一旦荷物取りに寄った俺より遅いってどーゆー事だよ」と言うと、「すみません、ちょっと考え事してました」と返ってくる。
まぁ、何もなかったみたいで良かったけどよ。
俺は少し安心して、ほっと息を吐いた。
「僕も履き替えて来ますね」と2年の靴箱へ移動する春月の後ろ姿を見送って、俺は少し混んでいた玄関を出た。
「……遅せぇ」
ったく靴履き替えるだけでなんでこんな時間かかんだ?
もう5分は待ってるぞ。
部活動やら下校やらしようとしている人が目の前を通り過ぎていくのをぼーっと見ながら、中々玄関を出てこない春月を待つ。
まさかまた襲われて……。と考えるが、頭でそれを否定した。
あいつは俺と出会う前から1人で行動してんだ。今更俺が心配することじゃねぇ。あいつも高校生なんだし。
……一応、だけど。
俺はもう少し待ってみようと思い、スマホをいじる。
「今日帰りどうするの」と湊翔からLimeメッセージが来ていた。
俺はそれに既読をつけず、サッと通知欄からスライドして消した。
……湊翔のことは嫌いじゃない。
むしろ、これまでずっと2人で過ごしてきたから人一倍愛着はある。
ただ元々人に興味が無いせいか、普通に話すというぐらいで昔みたいにベッタリという訳ではないが。
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