第一章 助けてくれたのは。

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次の瞬間、おじさんのような丸々とした脂肪の塊のような腕じゃない、太くはないがしっかりした腕に庇われるようにギュッと包まれる。 「大丈夫か?」 力強く、それでいて優しい声が聞こえた。 僕はびっくりして、その状態のままぼーっと立ち尽くす。 「おい?」 もう1度声をかけられ、ハッとした。 声が聞こえた上の方を見ると、そこには美しい人がいた。 スラッとした体型で、長身の。 色素が少し抜けたサラサラの髪に、綺麗に整った目。スっと通った鼻筋に、形の良い唇。 ピアスは何個かあいているが、怖そうな雰囲気ではない_______。 そんな人が、僕を抱きしめていた。 …!? なに、この綺麗な人。 なんで、僕がこの人の腕の中に…!? 今までの展開についていけず、頭がこんがらがってしまう。 何も言えずに放心していると、少し遠いところから怒声が聞こえた。 「何すんだお前!人に暴力を振るっていいと思ってんのか!」 さっき綺麗な人に吹っ飛ばされたであろうおじさんが、こっちに向かって来ていた。 「ひっ」 僕は怖くなってプルプルと震える。 そして、ギュッと綺麗な人の洋服を掴んだ。 綺麗な人は僕の事をチラッと見ると、 「大丈夫だ」とそう言って少し微笑む。 その優しい声と、安心させようと笑った表情にドキッとする。 綺麗な人は僕を少し後ろに下がらせると、僕を庇うように手で隠した。 「お前がこの子に無理やりキスしようとしてたからとめたんじゃねぇか。俺は間違ったことやってねぇぞ」 「無理やりじゃない!その子が俺を誘ったんだ!」 「そんなことあるわけねぇだろ。見てみろ、こんなに怯えてるじゃねぇか」 「っ、」 「それでもこの子がお前を誘ったってぇのか?」 「だって俺を見つめていたぞ!だから俺は声をかけたんだ」 …おじさんを見つめる? 僕はそんなことをした覚えがなくて、何も言えなかった。 「この子はそんなつもりはねぇみたいだけどなぁ?勝手に勘違いしてたんじゃねぇのか」 「っ、そうだとしても、紛らわしいことをするのがいけないだろう!」 訳のわからないことを言われる。 僕はただ、普通に歩いてただけなのに。 何も言わない綺麗な人と僕を見て、おじさんは「何なんだ全く!!」と怒りながら足早に去ろうとした。 「待てよ!」 そう言って綺麗な人はおじさんを追いかけようとするが、僕はそれを腕を掴んで引き止める。 いかないでっ。 1人になるのは怖い、そう思った僕に察してくれたのか、綺麗な人は僕のそばにいて優しく背中をさすってくれた。
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