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お仕置きが終わった頃には、俺はもう息絶えていた。
もうむり……。
耳弱いのにあんなに近くで囁かれたら……!
しかも恥ずかしいことばっかり言ってさ!
んなこと言われたことないから、どう反応すればいかわかんないよ。
俺は湊翔さんから距離をとると、近くに落ちていたクッションで顔を隠した。
今絶対顔赤いし。
そんなん見せたくない!
「雪白くん、こっちおいで?」
「いやだ」
「なんで?」
「なんでって!アンタいつも恥ずかしいことばっかり言って…!」
慣れてない俺には毒だ。
「嫌だった?」
「嫌、じゃない」
嬉しいんだ、本当は。
でも怖いから。
湊翔さんのことを好きだって認めて受け入れて。
その後湊翔さんが俺を手放したらどうする?
俺は湊翔さんに『いらない』って言われるのが怖いよ。
顔を隠していたクッションを持つ手に力が入る。
湊翔さんは俺に近付いて、そっと俺の手に彼の手を重ねる。
驚いて顔をあげると、とろけるような、それでいて『俺のことが愛しい』と叫んでいるような湊翔さんの瞳が俺に向いていた。
「ねぇ、好きだよ。
雪白くんのそばにいたい。
僕の恋人になってくれない?」
俺は突然の告白に唖然とする。
その言葉をきいて、最初に湧き上がったのは"喜び"だった。
胸の鼓動が速くなる。
このまま湊翔さんを受け入れて、付き合ってしまおうか。
彼とならきっと幸せに…。
『春月に近付くためだけの存在』
鷹の言葉がフラッシュバックする。
俺は湊翔さんを押し返して、遠ざけた。
やっぱり、怖い。
「…ごめん。付き合えない」
湊翔さんの顔を見ることが出来なくて、下を向いたまま答える。
「……それは、"僕"だから?
それとも、誰とも付き合う気がない?」
「…誰とも付き合う気はない」
「そう、わかった。
あまりお邪魔しても悪いし、僕はそろそろおいとまするね」
そう言って立ち上がった湊翔さんは、いつもとは違う能面的な_____当たり障りのない笑顔を貼り付けていた。
あ…。
「じゃあ、また今度」
部屋を出ていく湊翔さんを目で追う。
追いかけて引き止めればまだ間に合う。
俺も好きなんだって、付き合いたいって。
だけど_____。
もう見えない叶翔先輩の面影を探して、目線をさ迷わせた。
…断ったくせに。
湊翔さんがいなくなって寂しいなんて思う権利俺にはない。
伸ばしかけた手だけが、虚しく残された。
もし、彼のことを信じられる時が来たら。
素直になれる日が来たら。
その時は__________。
ちゃんと好きだって、彼に言えますように。
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