すくい

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「もう、君にしかできないんだよ」 うるさい。 「君にしかできないんだ、お願いだから」 うるさいうるさいうるさい。 いい加減にしろよ。 懇願するそいつを蹴り飛ばした。 そいつは諦めようとしない。 やめろ。 私の代わりなんていくらでもいる。 上司も同僚もそう言って私を切った。 私はもう、うんざりなんだよ。 血まみれのそいつを睨む。 そいつは諦めない。 「頼むから救ってくれ!  できるのは君だけなんだ」 去ろうとする私に。 そいつは縋り付く。 「裾を引っ張るなよ!」 「引っ張ってないと昇天しちゃうだろ?」 右手で私の白い服の裾を掴んで。 左手で私の心臓を握りしめていた。 その心臓は、私が怒鳴るたびに小さく震える。 「お願いだから、身体に戻ってくれ!  君を救えるのは、君だけなんだ…」 救急搬送された病院。 私の心臓を蘇生しようとしていた救命医。 「私がどんなに手を尽くしても、  君に自分を救う気がなければ意味がない」 そうだろうな。 同じことの繰り返しだ。 「君の努力も、  君の喜びも、  全部そう。  生きることを認めてあげられるのは、  君だけなんだよ」 「さっきから何でそう、  全部私に委ねるんだよ」 裾を引っ張ってこの世に縛り付けながら。 「だって君は、  君以外の人に委ねているじゃないか」 私を潰した上司。 見捨てた同僚。 「そんなものに従うことに、  何の意味がある」 裾を引っ張る。 「君自身が決めるんだ」 ひときわ、強く引っ張った。
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