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赤い鳥
その西條に、美海から電話が有り、由紀が車で出かけたと言う。
「きっと美里村に行くと思うけど、一応、後を追ってみるわ」
「お願いします、こっちも、目が離せなくて」西條は、そう言って
コインロッカーから、荷物を持ち出した男の乗っている、車の後を追う。
木場は、取り押さえた男の携帯を取り上げると、それを持って
亜香里の所へ行き「解析、お願いします」と、渡した。
「はい、ご苦労様」亜香里は携帯を受け取ると、直ぐに解析に掛かる。
重要な事には、ロックが掛かっていたが、亜香里にとっては、何でも無い。
あっという間にロックを外して、暗号で記されている言葉も
難なく解析して「やっぱり、明日の、総理の講演会を狙ってるわね。
もし、大翔がその後援会の護衛だったら、中止するんだって
よっぽど、大翔が怖いのね~」と言って笑い、それを師岡に報告する。
取り押さえた男は、貝のように口を閉ざして、何も喋らなかったが
「お前は、何も喋らなくて良い、お前の携帯が、全て喋ってくれた」
師岡にそう言われて、その男は「嘘だろ」と言って、真っ青になった。
バックを持った男が行った先は、辺りに建物も無い、寂しい町外れに有る
平屋の一軒家で【赤い鳥】と言う、よく見ないと分からない
汚れた看板が掛かっている、人材派遣会社だった。
その入り口には《君もボランティア活動で、日本中を助けに行こう》
と、書かれた、張り紙が有った。
離れた所に停めた、車の中から、双眼鏡で、それを読み
「ここが、アジトの様だな」西條は、そう呟いた。
だが、男は直ぐにそこから出て、また車に乗って走り出す。
西條は、師岡から手配された、二台目の車を、そこの見張りに残し
石田と二人で、その後を追う。
男の車は、7階建ての、古いマンションに停まった。
古いマンションなので、鍵が無くても、西條たちは
エレベーターの前まで行けた。
エレベーターの行方を見ていると、5階で止まったが
各階には、部屋が5室あり、5階の、どの部屋なのかまでは分からなかった。
「さっき、5階に行った人は、何室ですか?」と、管理人に聞いたが
「さぁ、5階によく行くので、5階の人なんでしょうね~」と、言われる。
35室の住人全てと、そこへ出入りする人の顔までは
覚えていられないと言う、無理も無い話だった。
男は、いつまで待っても、出てこなかった。
報告を受けた師岡は、アジトと思われる【赤い鳥】と
そのマンション一帯に、部下を配置し、万全の準備をする。
一方、由紀は、美里村へ行き
「皆さん、この前は、美味しい野菜を沢山、有難うございました」と
お礼を言った。
「由紀、また、お菓子持って来てくれたのか?」玉翠が、駆け寄って聞く。
「はい、今日は暑いから、アイスにしました」と
由紀は、クーラーボックスを見せ「皆さん、食べて下さいね」と、言った。
「お~い、アイスだって」彬が、皆に呼びかけ
皆も仕事の手を止めて、アイスに群がる。
「俺、やっぱり最中が良いな」「俺は、昔ながらの棒付きアイスだ」
「俺には、アイス饅頭を呉れ」作蔵までが、手を伸ばす。
そこへ美海もやって来た「美海ちゃんも、来たのか?アイスが有るぞ」
「由紀が、持って来たんだ」玉翠は、もう口の周りを、アイスだらけにして
そう言う「こんにちは、由紀さん、お花見以来ですね」
「そうでした、これで二度目ですね」由紀も、そう挨拶し
「どうぞ」と、アイスを進める。
「有難う」美海も、カップのアイスクリームを、貰った。
アイスクリームを、売る店など無い村なので、村人全員が
久しぶりだと、由紀のアイスを喜んだ。
「あら、今日は大翔さんは?」由紀が不安そうに聞く。
「大翔は、パソコと、遊んでる」玉翠がそう言う。
「パソコ?」「パソコンで、頼まれた原稿を書いているんです。
今日は、着替えを持って来たんですけど、兄さ~ん」美海が声を掛けると
「おっ、皆さんお揃いだね、何か有ったの?」大翔が、甚平姿で出て来た。
「由紀さんが、アイスを持って来てくれたの、兄さんも、一つどう?」
「そりゃぁ嬉しい、丁度、冷たい物が欲しかったんだ」
大翔はそう言うと、棒付きアイスを貰って、ガリリと嚙んだ。
由紀は、嬉しそうに笑うと、車に物を取りに行く振りをして、携帯に触った。
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