赤い鳥

1/7
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/99ページ

赤い鳥

その西條に、美海から電話が有り、由紀が車で出かけたと言う。 「きっと美里村に行くと思うけど、一応、後を追ってみるわ」 「お願いします、こっちも、目が離せなくて」西條は、そう言って コインロッカーから、荷物を持ち出した男の乗っている、車の後を追う。 木場は、取り押さえた男の携帯を取り上げると、それを持って 亜香里の所へ行き「解析、お願いします」と、渡した。 「はい、ご苦労様」亜香里は携帯を受け取ると、直ぐに解析に掛かる。 重要な事には、ロックが掛かっていたが、亜香里にとっては、何でも無い。 あっという間にロックを外して、暗号で記されている言葉も 難なく解析して「やっぱり、明日の、総理の講演会を狙ってるわね。 もし、大翔がその後援会の護衛だったら、中止するんだって よっぽど、大翔が怖いのね~」と言って笑い、それを師岡に報告する。 取り押さえた男は、貝のように口を閉ざして、何も喋らなかったが 「お前は、何も喋らなくて良い、お前の携帯が、全て喋ってくれた」 師岡にそう言われて、その男は「嘘だろ」と言って、真っ青になった。 バックを持った男が行った先は、辺りに建物も無い、寂しい町外れに有る 平屋の一軒家で【赤い鳥】と言う、よく見ないと分からない 汚れた看板が掛かっている、人材派遣会社だった。 その入り口には《君もボランティア活動で、日本中を助けに行こう》 と、書かれた、張り紙が有った。 離れた所に停めた、車の中から、双眼鏡で、それを読み 「ここが、アジトの様だな」西條は、そう呟いた。 だが、男は直ぐにそこから出て、また車に乗って走り出す。 西條は、師岡から手配された、二台目の車を、そこの見張りに残し 石田と二人で、その後を追う。 男の車は、7階建ての、古いマンションに停まった。 古いマンションなので、鍵が無くても、西條たちは エレベーターの前まで行けた。 エレベーターの行方を見ていると、5階で止まったが 各階には、部屋が5室あり、5階の、どの部屋なのかまでは分からなかった。 「さっき、5階に行った人は、何室ですか?」と、管理人に聞いたが 「さぁ、5階によく行くので、5階の人なんでしょうね~」と、言われる。 35室の住人全てと、そこへ出入りする人の顔までは 覚えていられないと言う、無理も無い話だった。 男は、いつまで待っても、出てこなかった。 報告を受けた師岡は、アジトと思われる【赤い鳥】と そのマンション一帯に、部下を配置し、万全の準備をする。 一方、由紀は、美里村へ行き 「皆さん、この前は、美味しい野菜を沢山、有難うございました」と お礼を言った。 「由紀、また、お菓子持って来てくれたのか?」玉翠が、駆け寄って聞く。 「はい、今日は暑いから、アイスにしました」と 由紀は、クーラーボックスを見せ「皆さん、食べて下さいね」と、言った。 「お~い、アイスだって」彬が、皆に呼びかけ 皆も仕事の手を止めて、アイスに群がる。 「俺、やっぱり最中が良いな」「俺は、昔ながらの棒付きアイスだ」 「俺には、アイス饅頭を呉れ」作蔵までが、手を伸ばす。 そこへ美海もやって来た「美海ちゃんも、来たのか?アイスが有るぞ」 「由紀が、持って来たんだ」玉翠は、もう口の周りを、アイスだらけにして そう言う「こんにちは、由紀さん、お花見以来ですね」 「そうでした、これで二度目ですね」由紀も、そう挨拶し 「どうぞ」と、アイスを進める。 「有難う」美海も、カップのアイスクリームを、貰った。 アイスクリームを、売る店など無い村なので、村人全員が 久しぶりだと、由紀のアイスを喜んだ。 「あら、今日は大翔さんは?」由紀が不安そうに聞く。 「大翔は、パソコと、遊んでる」玉翠がそう言う。 「パソコ?」「パソコンで、頼まれた原稿を書いているんです。 今日は、着替えを持って来たんですけど、兄さ~ん」美海が声を掛けると 「おっ、皆さんお揃いだね、何か有ったの?」大翔が、甚平姿で出て来た。 「由紀さんが、アイスを持って来てくれたの、兄さんも、一つどう?」 「そりゃぁ嬉しい、丁度、冷たい物が欲しかったんだ」 大翔はそう言うと、棒付きアイスを貰って、ガリリと嚙んだ。 由紀は、嬉しそうに笑うと、車に物を取りに行く振りをして、携帯に触った。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!