触らないで!弁護士呼ぶぞ!

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触らないで!弁護士呼ぶぞ!

よしおは宝くじで大金を当てた。それも、途方もない額であった。 よしおは一躍有名人になった。周りをおこぼれに預かろうとする有象無象が囲い、一躍メディアの寵児となった。 よしおはYouTubeを始めた。そこに投稿されたのはたった一本の動画だった。よしおの新しい動画を見ることはもうない。よしおはその中で、完結しているからだ。 よしおは無数のトラックを引き連れて、ショッピングモールに行った。そして売り物全てを買い占めた。よしおは無数のトラックに品物を積むと、全車を産廃処理場に向けて走らせた。 よしおはまず手始めに、無数の食料を全て産廃の山に下ろした。ごみとくそにまみれたそれらは、もう口に入れられない。次に衣料品を全てその中に混ぜ込んだ。捨てた、棄てた、すてた。 キャデラックも、ゼニスも、ソニーも、全て代えが利く。よしおは次に、大量の紙幣を全てクラッシャーに投げ入れた。 よしおはその光景を呆然と見ていた。大丈夫だ、まだまだ、金ならたくさんある。今と同じことをあと10回はできる。 その時、1匹のゴキブリがよしおの手の甲に飛びついた。よしおは豚のように悲鳴を上げながら「触らないで!弁護士呼ぶぞ!」と叫んだ。 その時よしおは、驚いて後ろにのけぞったのでバランスを崩した。足元にしたたる廃液に目が向かなかったので、滑り、頭をしたたかコンクリートの床に叩きつけて絶命した。 後に残ったのは、無数のゴミと呆然とする人々だけであった。1匹のゴキブリは、何を気にすることもなく黒羽を広げてよしおの後頭部から漏れ出す血液よりも赤い夕暮れ空に向かって飛んでいった。 群衆の一人が、ふざけてよしおの断末魔である「触らないで!弁護士呼ぶぞ!」と叫んでみた。誰も笑えなかった。 誰も笑うことがそもそもできなかった。
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