Paripelidone For Me

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Paripelidone For Me

薄暗い部屋の中で、注射器に注がれた鉛色の液体のみが鈍く輝いていた。電気を止められて、腐った生ゴミとそれをかじるゴキブリが山になった流し台、何日も流していない便器に、カビだらけのシャワールームがそれぞれ、頽廃の演出を分担している。床には食べ残しや汚い衣類が散乱し、ネズミの共食いの痕跡があちこちにあった。  中毒者はうつろな目をしていて、自らがごみ溜めの混沌の最先端にいると信じ切っている。 まどろむ魂が救いを投げ捨てて、永遠の堕落に身をゆだね続けている事実を彼女は止めようがない。注射針は血管に入り込み、そしてまるで幽霊がとりつくようにドラッグが中毒者の体内に吸収された。  今、自分は死の岸辺から船出を果たし、自らの生命を宿した肉体を自ら猛毒に浸してどこに向かっていくのかもわからない。子宮の中で体を丸めて、浮かんでいる気分だ。まるでついさっき、動かし方を覚えたかのように心臓がビクン、と大きく脈打ち冷たい血液をぶちまける。咳がこみ上げて、まずは嘔吐。次に喀血。失禁。  恍惚の表情で血液、糞尿、その他自らがマニュファクチュアを担っているはずの体液が止まらない。こわばっていた全身の筋肉が緩み、これから安楽死でもするのではないかという状態だ。絞首をしていないのに、窒息の快感と苦痛が全身を覆い、そして喜びと苦しみの双方が体をまるで魚のように跳ねさせる。  神経に激しい電流が流れていて、閃光の中で血と汚物にまみれる自分を浄化するように心を狂気の焔で焼き焦す。  自らを滅ぼすことに比べれば、他の何物も匹敵することはない些細な、捨てて構わない物に変わっていく。  愛情が、慈しみが、思い出が。すべて快楽に変ってゆくこの背徳は、自殺の翼を代償にそれまで手に入らなかった幸福をもたらしてくる幸いから、足を洗えるものなど一人もいない……
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