この想い届けたくて

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 ミーーン、ミンミンミン、ミーーン。  窓の外に響く蝉の合唱。夏全開だった暑い今日1日を象徴する。  それでも放課後になり、いくらか日が傾き始め、ふわりとした風が音楽室に吹いた。日除けのカーテンが優しく揺れる。片隅に座っていた私は、「フー」と一息ついて、また手元に集中した。オーボエのリードにプラーク(薄い板)を挟み、丁寧にリードを削っていく。刃の厚いリードナイフが滑らかに動き、サッ、サッ、サッ、サッ、と音を立てる。その音が心地よくて私の気持ちを落ち着かせてくれる。  ……静かに、静かに、静かに、静まれ。  中学校で気持ちが落ち込んだり嫌な気持ちになった時、私の心を落ち着かせてくれる場所、それが放課後の音楽室。ピアノの影。片隅。そして、集中してオーボエのリードを削る。これが、私が私を取り戻す大事な所作。私にとって大事な大事な時間と場所と方法。  窓から時折射す光が、私の一つに結んだ長い髪や中学校の白いブラウスの制服を包む。傍らには、ビロード生地のケース内、大事に収められたオーボエが輝いている。ケースについたネームプレート「2年2組 (たちばな)瑠璃(るり)」の文字がキラリと光った。  フー、と息を吐いて削ったリードを持ち上げ確認する。まだ少し厚いかな。もう少し両サイドに向かってなだらかにしよう。「よし」そう呟いて息を止め、再びリードを削る。  オーボエはとっても扱いの難しい楽器。リードの手入れを少しでも怠ると、ちゃんと音が出ない。簡単に声を聞かせてくれない。私に似ている。初めてオーボエの準備を見たとき、そう思った。 「私と同じ。……ううん、そんなことないよね、ごめんね」  私はリードナイフで削る手を止め、そっとリードを口に含んでみる。軽く息を吹き込んで状態を確認すると、先ほどより吹き心地が軽くなり吹きやすくなった。 「うん」大丈夫そう。  足元にある水の入ったビンを取って蓋をあけ、先ほどのリードを静かに浸した。オーボエ本体を優しく撫でると、ひんやり冷たい感覚が指先に伝わってくる。 「大丈夫だよ。心配しないで。私がちゃんと響かせてあげる」  瓶の中のリードがコトリと動いた。  私。この子(オーボエ)と一緒に、いつか。  音色に気持ちを込めて、すべて伝えられるんじゃないかって、そう思うんだ。
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