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向こうを向くと、お母さんとおばあちゃんが笑って手を振ってくれていた。
三穂ちゃんが駆け寄ってきて背中を押す。
「えっ?」
と驚く私は、永野君の前に連れていかれた。三穂ちゃんを見ると、三穂ちゃんが、顎で永野君に言えと合図をくれた。
「うん」
深呼吸をしてお腹に力を入れる。
そして永野君に向き直る。
「小学生の時、助けてくれて、救い出してくれて、本当に本当に本当に、ありがとう」
「……」
永野君はだまっていた。
「私、あの時から歩ける様になった。前を向いて、私なりに、歩ける様になったの」
「……」
「ありがとう」
「うん」
「どうしても、ありがとうって。ちゃんと、私の、私の声で言いたくて」
「うん」
永野君が、頭を掻いて下を向く。
私は深呼吸をして、少しホッとした。
「どう、どうだった。瑠璃の演奏」
と三穂ちゃんが永野君に詰め寄る。
「……おう」
「涙ぐんでる?」
脇を向く永野君。そして
「俺が言いたいのは………」と言葉を探していた。
「……」
「次は、次は、ないなんて、言うな」
「……」
「待つよ。時間が必要なら、いつまでも待つ。だから」
「でも私」
「待つ!!」
永野君は強い口調で私の言葉を遮った。
「ずっと待つ。ずーーーーーーーーと待つ。……だから、次はないなんて言うな。次はないなんて絶対言うな!」
「うん」
「それに……」
永野君は上を向いて鼻を啜った。
「言葉はなくても、ちゃんと気持ちは伝わるよ。……伝わった! だから、心配しなくていい」
「……うん」
「また、聴かせてほしい」
永野君がクリクリした髪の頭をかく。
私は笑顔になった。
「うん」
溢れた涙を拭いて笑顔で空を見上げると、星が瞬き煌めいていた。
あー、やっぱりそうだよね。世界ってどっかで輝いている。辛いことがあったって、悲しいことがあったって、それだけじゃないんだ。どっかで確かに輝いている。
一瞬、その一瞬が、輝き煌めいている。
私も。たった一瞬だけど。
短い短い一瞬だけど。
確かに輝けたんだ。
……そして、一瞬しかないその輝きを見てくれて、ありがとう。
うん。
私、これからも。
私なりに。
時間をかけて、
ゆっくり、ゆっくりと、
私らしく歩く。
ありがとう、みんな。
ありがとう、私。
Fin
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