あの白い雲を君は追いかけていった

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  西日が私の背中を照りつけていて暑さを感じ始めていた。 それでも私の手は止まることなくキャンバスに色を載せていっている。 外からは野球部の生徒たちの飛び交う声で騒がしく、慣れているとはいえため息がこぼれた。  高校入学後、すぐに美術部に入部した。私の通った中学に、なぜか美術部は存在せず絵が好きだった私は、その事がとてつもなくショックだった。 「あら?浅田さん、あの絵はどうしたの?とても良く描けてたのに・・・」 振り返ると、川口先生が残念そうな顔をして立っていた。 「え?ほんとですか?自分では納得できなくて。内容変えました」 「そうなの。また描いてね。猫ちゃん」 「ふふっ。わかりました。捨ててはいないんで」 先生は、微笑んで2、3度頷くと他の生徒の絵を見て回る。 美術部顧問の川口夕子先生は、優しさで溢れた先生で、皆、彼女を信頼しており私もその中の一人だ。 川口先生は、教師という立場だけどその立場を強さや恐怖で示したりは絶対にしない。何かを勘違いし生徒を委縮させる教師も居る中で、彼女のような人に出会えたことは幸運だ。
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