凛々しい 少年

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凛々しい 少年

俺のもちぬしは少女、アイラ。 俺は、彼女の母が彼女に贈った日傘の付喪神つくもがみ。 付喪神というのは、とても「ちいさなもの」だ。 付喪「神」なんだから、それはそれは大層な存在…と思われがちだか、実はそんなことは無い。 一般人には見えず、もちぬしも自分の「ちいさないのち」しか視えないのが普通だから、伝承、御伽噺おとぎばなし、それから都市伝説に、ファンタジー系の物語り…その程度で語られる付喪神が一般的に認知される「俺ら」という存在だろう。 ・大切に扱う物から生まれし者 ・悪戯好き…まるでそう、座敷童子のような。 そんなモノとしての認知が高い…と思う。 さて、2つ、一般的に知られた「付喪神」としてのイメージを挙げたが、二つ目は当てはまらない。 …一部例外というものはあるが… 悪戯好きな性格の付喪神もいるからな。 アイラの事だが…。 アイラはお嬢様だ。口調から見ても分かる通りの古典的お嬢様だ。 両親は家という名の箱庭で彼女を囲うが、意外とアイラ本人は家の外に抜け出す頻度が高いので囲えてはいない。 アイラが家の外でする事といえば、麗華(れいか)という少女と、彼女の付喪神である、筆の付喪神に会いに行く事。 基本的に他の付喪神は、もちぬしでさえ、見えないと言ったが、アイラにはどうやら視えるらしい。 そこで、同じく視える麗華と友人になったというワケだ。 麗華は、巫(かんなぎ)の少女であり、特別なチカラを宿す身であるわけだから、視えていても、可笑しくは無い。 だが、アイラには何故視えているのか、それは俺にもわからない。 そうこうしてるうちに、アイラが目醒める時間だ。 「おはよ…」 そういって彼女の頬にそっと、キスをした。 毎朝起こす度に、そうする理由は主に二つある。 一つ目は、アイラがちゃんと存在してるのを確かめる為だ。 アイラが居ないと、その付喪神である俺も消える。付喪神ともちぬしは、一心同体なんだ。 もちぬしが死んでしまう、だなんて事があれば、俺ら付喪神を認知して接する人が居なくなる。必要性を感じられなくなる。 だから、消えてしまうんだ。 だから、一心同体なんだよ。 二つ目は、ただ単にアイラに触れたいから。 付喪神ともちぬしは、色々な関係性で結ばれる。 ある者は親友となり。 ある者は恋人となり。 ある者は悪友となる。 ほんとに様々な関係性がある。 俺の場合、アイラが好きだ。 アイラは俺の事、異性として気にしている様子が無いから、完全片想い…となるが。 それでもアイラを愛してる。 好きな女の子には触れたいだろう? 男なら誰であって分かるはず。 だから、モーニングコールと同時にキスをする。キスと共に見えるはにかむ笑顔は俺の宝物だ。 「おはよ…」と返すその眠そうな声、表情、その全てが宝物だ。 これが、俺とアイラの1日のはじまり。 これが、俺とアイラのいつもの日々だ。 身体がこんなちみっちゃいモノじゃなければ…付喪神というモノではなく、人間というモノとして、うまれていれば… そうしたら…そうしたら… 俺は、俺は… いや、でも良い。これだけであれ、側に居られるから俺は幸せ者なんだ。 好きな人と共に居られる事。愛してる人が、別の意味であれ好いてくれる事が幸せなんだ。 だからこのままでも良いかもしれない…。 こうして静かにはじまる1日…… アイラは午前中は勉強をする。 お嬢様だから、マナーやらなんやら… 俺には全く理解のできない事。だから、凄いと思う…いや、俺が馬鹿なだけなのかな? こうしてお昼を食べる。 今日の昼飯は明太子とバターのパスタだ。 上には海苔が飾られていて、とても映える。 バターの芳ばしい香りがして、とても美味しそうだ。 デザートは少し小さめのプリンアラモード。 小さなプリンの中央に生クリーム、周りにに、蜜柑、さくらんぼが乗っている。 そして、生クリームの上にはチョコレートソースがかかっており、これまた映える。 パスタも少し少なめなので、女の子でも食べやすいようになっているようだ。 一口一口、綺麗に優雅に食べている。 いや、そういうとこも、アイラめちゃかわいいな!? 恥ずかしいのでそんなに見つめないでくれませんか?というアイラもまた可愛い。 こうしてデザートまで完食したアイラの午後は自由時間だ。 自由といえど、このお屋敷の中で、という話だが。 だが、今日のアイラの両親はお屋敷に居ない。家政婦も両親に付き添うのでお屋敷には俺とアイラのみだ。 そういう日に俺たちはこっそりと屋敷を抜け出す。 着替えて日焼け止めを塗ったら準備万端! 俺という名の日傘を持ち、向かうは麗華れいかの家。 麗華というのは、アイラの友人。 …そうしてアイラと同じく「もちぬし」だ。 仲良くなった理由は、俺と麗華の筆の付喪神だ。アイラが家政婦と、俺と、散歩をしている時に話しかけてきた。 ーあなたにわたしはみえますかー そう、話しかけてきた。 それがきっかけ。 そうして出かけ、もう麗華の家には何度も足を運んでいる。 彼女は「巫かんなぎ」の少女。 彼女は「チカラ」の持ち主。 突然俺ら付喪神を悪魔だと罵った。 もしかしたらそんな付喪神も居るかもしれないが、全員が全員、そういうわけではない。 彼女は変わる。 明るい性格は冷たく凍り、 華やかな心は悲しく叫ぶ。 麗華はどこから狂った。 どこから入れ知恵された。 悲しい。付喪神として、護りその命を枯らした筆の付喪神は報われなくなるのでは無いか。 いいや、厳密に言うとまだ筆の付喪神は生きている。だが、意識が無いのだ。 だから何故か他の付喪神が見えるアイラが、保護している。 …麗華は、アイラは、付喪神は……どうなるんだ? どうか、この少女たちを救う者が… 1日でも早く現れますように。
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