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また あした
るーいー!
ぼくの名前を呼ぶ声がする。
るぅぅいぃぃぃ!
五月蝿(うるさい)なぁ…。
るいさーん??
んむぅ…ふああっ!?なっ…つっ…ぁ
夏祭り…
やっと起きたね、るい…夏祭りって!
ぼくを起こしたのは兄の悠輝(ゆうき)だった。いつもは母さんが起こしてくれるはずなのにな…
今日は土曜日、そして待ち遠しい夏祭りの日。
運命が交差し動き出すのは、まだ、
知らない。誰も、わからない。
切り替わる、夏祭り。
「るいは今日はどんな格好して夏祭り行くんだ?」
「いつもの。浴衣着てたら似合わないよ、パスケース」
「何処にでも付けてくよな、鞄とかに。付喪神がいるからか?」
「お兄ちゃんこそ、いつも持ってるよね、音の奏でられなくなったキーボード…あれも宿ってるよね」
「ん、まぁな…ってかいつも持ってるわけではないし」
照れてるお兄ちゃん可愛過ぎる、頭おかしくなりそう。
「でも、付喪神はその物から離れられるし…地縛霊じゃないんだから。」
「それでも持っていたいの!だって親友だもん」
付喪神にはそれぞれ、もちぬしとの絆の形がある。
ぼくは「親友」
お兄ちゃんは「恋人」
他の人には付喪神は見えない。
けれどお兄ちゃんには「そこ」に付喪神がいることがわかるようだ。
ぼくにはそこに「付喪神」がいると直感で感じるというよりか普通に見える。
お兄ちゃんの横で照れている付喪神だってはっきりと認識できている。
2人のらぶらぶを邪魔したく無いからキーボードの付喪神さんと関わる事なんて殆どないけど。
「あ、夏祭り…ぁあ!…あー…お小遣いぃ…」
夏祭りといえば、屋台だ。
焼きそば、たこ焼き、かき氷…
ラムネに、チョコバナナに、イカ刺しなんて!
射的や輪投げ、金魚掬い、それから…水風船なんて…
いっぱい食べたいものやりたい事あるんだ
でも旅行行ってお金がない…のは置いておこう
……そして最後には花火。
花火は実を言うと一度幼い頃に見たっきりだ。
母に手を引かれ、隣にはぼくを見て微笑むお兄ちゃん。
隙間のない程にぎゅうぎゅうになった人混みは幼児(おさなご)であればすり抜けるに容易い。
大人達の足元をすり抜けて花火の良く見える穴場の海岸へ足を運んだ。
花火を見た。
そのとき。
流れ星がぼくの視線を射止めた。
ぼくと、付喪神との運命が交差する時、流るるひとすじのヒカリ。
その日を栄目に世界が変わった。
というのもぼくの世界、というだけだが。
例えば。
兄が誰もいない所に微笑みかけている理由がわかった。
例えば。
友達のずっと好きな人が一風変わっている理由がわかった。
例えば。例えば。
……例えば。
…例えば、世界は神様に守られているという事実がわかった。
ちいさな神様。名を付喪神。
人々はそれを「ちいさないのち」と呼び親しむ。呼び唄う。
様々な関係が、様々な世界が。
ひとすじのヒカリにより、夏祭りにより。
教えられた。
兄にも…いたんだ…ちいさないのちが。
キーボードはぼくがうまれる前からあったもの。兄の誕生日に出逢ったもの。
はじめて、みた…
それがはじめての付喪神だった。
髪が短く、顔立ちが少し中性的なので男の子か女の子か迷ってしまう。
ただそれをひっくるめても好きなのだろう。
黒色をモチーフにし、首元にレースをあしらった服。下はズボンだ。
それがキーボードの付喪神。
………
話が逸れてしまったけれど、初めてみた花火。花火というよりその、ひとすじのヒカリ。
それにより与えられたチカラ。
ぼくはそのヒカリと花火の美しさに心奪われたのは紛れも無い事実。
だから、今日の夏祭りはぼくにとって、特別なのだ。
結局浴衣を着て行くことにした。
パスケースは巾着袋の中だ。
「お兄ちゃんっ、わたあめわたあめ!」
もうすぐ成人する少女とは思えない、子供のような口ぶりで話すのはぼく。
「るい、転ぶぞー」
彼女のいない…いや、人間の彼女がいない兄は注意を促した。
でもキーボードの付喪神にヤキモチを焼かれたようで、少し困り顔だ。
キーボードの付喪神も「ぷんぷん!」という擬音が聞こえてきそうなくらいにほおを膨らませている、かわいい
こうして夏祭りを楽しんだ。
「お兄ちゃん、射的うまっ」
「ほーら、るいの好きなくまさんだよー」
「お兄ちゃん輪投げもうまっ」
「またくまさん取れたよー、るい」
「翠彩(みさ)っりんご飴おいひぃ!」
「るいちゃんっ、喉詰まらせないでよっ…もぉ…ままって呼んでたのが今となってはちょっとおかしく感じる!」
…確かに
出会った頃には「まま」って呼ばれてたな
花火の時間。
きれい…心からの声
キラリとチカチカと心でカケラが踊ってる
そのカケラを世間では「不思議」とか「違和感」って言うんだろうな
…ねぇなんか、ヘンだよ
ぼくの付喪神も、お兄ちゃんの付喪神も、消えてしまったんじゃなかったっけ…
気がついた?そうだよ、るいちゃん
夏の夜の熱い感じ。お祭りならではの人の声、太鼓の音。
全てが聞こえず、気がついたら真っ白な空間にいた。
「あなたはぼくのパスケースの付喪神の…翠彩…」
うん、そうだよるいちゃん
「なんで、ここに…」
るいちゃんはね、夢を見てるんだぁ
ねっ、るいちゃんにとってのターニングポイントってあの一度きりの夏祭りでしょう?
「…そうだね…そこから付喪神が視えるようになったから」
もう一度、ターニングポイントがくる。
それも近いうちに…
巫(かんなぎ)の少女とその友達のお嬢様によって。
るいちゃんは付喪神がみえる。
助けて欲しいと願う付喪神の事を。
聞いてあげてほしい。最近消えゆく付喪神の為に。付喪神たちを守る為に。
そして、2人の少女の為に…。
その為に私だって助力する!
「い、いきなりそう言われても…」
るいちゃんだから、できるの!るいちゃんにしかできないの!
だって、私のままだもん!そして私たちは仲良しでしょう?お友達でしょう?
信じてる、だからできる…
それじゃ、またね、るいちゃん
「や、やだっ…いやっ…別れたくないよ、やっと出会えたのにっ…」
るいちゃん、大丈夫、ちゃんといづれ帰ってくるから…
…じゃあ…また あした
うん、また、あした、会えるはずだよ
明日からまた付喪神のいない生活。
それでも、探そう…ターニングポイントにして変わろう。
あの子の帰りを待つ為に。
「…また、あした…ねっ…」
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