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ぼくの宝物
ぼくはるい。
中学生の時、塾に行くから、という事でお母様から一つのパスケースが与えられた。勿論定期券を入れる為の物だが…
淡いパステルカラーの様な翠彩(みどりいろ)で、花が3つプリントされた物だ。
ぼくはこれを見た瞬間から目に、心に、頭に、残り続けた。ぼくはその定期入れ大切に持ち歩いた。元々、ぼくは旅行に出かけるのが好きで、高校に上がってからは良く一人旅をしたり、家族と出掛けたり、友達と温泉行ったり…と、高校生らしからぬ事をしていた。
お金、ぎりぎり…
母に前借りでお小遣いを求めるほど好きだったのだ。
翠彩の定期入れを使う度に、この旅の成功と、新たな出逢い、愉しさを想像して、恍惚をしていた。
ある日、ぼくはとある人と出逢った。
ぼくはその人に一目惚れをした。
出逢ったのはネット上。しかもぼくよりもかなり歳上で……。恋したのはネットの人。その人はぼくの事も好きになってくれた。
遊びなんかじゃ無い、本気の恋。
恋に学びに…部活をこなし、その上で生徒会でもあったぼくは、旅行に行く回数も徐々に減っていった。
兄は5歳の誕生日の頃貰ったキーボードのお陰でピアノに興味を持ち、ピアニストになり、忙しく。母は母で仕事で海外に行っており、母子家庭なので父は不在…。
人の温かさが、温もりが欲しかったぼくは、彼氏となった愛しい人に徐々に依存していった…。
成人してから、その人に会う事になった。
その頃にはもう、旅行に行かなくなってしまった。
ー旅行より、彼氏と話してる方が楽しいー
そう思えばあれほど大切にしていた、定期入れ…何故、高校卒業暫くしてから無くしてしまったのだろうか。それはきっと想いも記憶も、そして思い出さえも掻き消して、掻き乱して、崩れて____
泡沫のように消えたそれは、やがてやがて全てが無くなる。儚く消えさる。
全てが無くなれば、消えるはその存在、
「つくもがみ」
ぼくが大切にしていたそれは、付喪神つくもがみが宿っていると思った。オカルト紛いなものは信じないけど、けれどけれど、だけれども、付喪神が宿ってると直感した。
何故なら…あの、定期入れと意思疎通が出来たから。
旅をしようと思えばこの子はとても使って欲しそうにする。撫でて欲しそうにする。
この日記を読むキミは、信じてくれないでしょう。ぼくが、このぼくが、オカルトなんて信じないこのぼくが、そんな事を言ったから。
でもやはり居るは「つくもがみ」
泡沫の彼方へと誘いざなうは「ちいさないのち」
誘う、ゆれる、ゆれる、ゆらゆらゆれる、
誘われのこころ、こころゆらゆら。
ねぇ、そこにいるんでしょう?
そこにあなたの存在は「ある」んでしょ?
ごめんなさい、ごめんね、悪い事、してしまった。
ぼくは謝りました。消えてしまった、翠彩の定期入れに。ぼくは心から求めました。
…翠彩の定期入れに…
一度だけ、たったの一度だけ。夢を見た。その夢なかでは精霊に巡り巡り逢いました。
日記に読む貴方にはその正体なんて明々白々でしょう?
翌朝、見つけたのは翠彩の定期入れ。
ーありがと、ありがとー
見つかってくれてありがとう。
そうして不思議な不思議な体験をしたぼく。
その後の事だけど…
彼氏とは、結婚をしました。
旦那とは時々旅行に出かける。
もちろん、あの愛しい翠彩の定期入れを使って。
ーキミ、ボロボロになってきたね、でも、いつでも可愛くてきれいな翠彩の定期入れよー
旦那との関係も良好。相性もあっただろう。
ぼくと旦那との間には、結婚して1年。
子供ができた。可愛い女の子だ。
名前をつけるにあたって沢山悩んだ。
みゆき?ちとせ?
すずか?こころ?こゆき?
ゆう?はるか?なる?かなえ?
さゆ?あゆり?ゆずき?まゆ?なぎさ?
いいえ、最初から決まっていました。
ぼくは、ぼくの可愛い旦那様との子供…。
ぼく…いいえ、私の娘の名前は____
翠彩(みさ)
…そう、名付けました。
名前の由来なんて、君達にはわかるよね?
さて、ここまでにしておきましょう。
余りに長くなってもいけないもんね。
この日記が作られた理由は付喪神に助けられた人たちとその付喪神を追った1人の少女のその記事でもある、と言う事。
それを忘れなければきっとわかるでしょう。
その理由はちっぽけであった。
でも話すと、その少女に××される。
まだ旦那と翠彩ちゃんを残しては逝けない。
だから話せない。でも、その理由も単純。
その「ちいさないのち」にも私にも少女にも…そしてこの日記を読むキミにも、不利益にはなりません。
だから安心して次のページをめくって…
めくって…巡りましょう。
つくもがみ…いいえ「ちいさないのち」に出逢うまでの旅を。
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