ゆうきの おにいちゃん

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ゆうきの おにいちゃん

出逢いは彼が5歳の時。巡り、めぐり、巡り会う。 キーボード。5歳の誕生日プレゼント。巡り逢う。 出逢いは春。運命(さだめ)られた私と彼の軌跡の物語。 悠輝(ゆうき)くん、それが私の、このキーボードの付喪神つくもがみの愛するもちぬしの名前。 ー悠輝くん、誕生日おめでとうー お母様のそのセリフと共に彼の手に渡された物こそ、この私、キーボード。悠輝くんは私を気に入ってくれたようで。毎日毎日使ってくれた。 最初は「チューリップ」のような簡単なものから。次第に悠輝くんの成長と共に弾ける楽曲数も増えていった。 その度に悠輝くんからの私への愛も、私からの悠輝くんへの愛も、溢れていく。 悠輝くんとは沢山の愛を育みました。 楽曲(おんがく)を、私の身体キーボードを通して。 彼はいつしかピアニストを志しました。キーボードとは似て非なるもの、ピアノ。 バンドとかなら分かるけど、なんでピアノなのかはちょっと気になる。…でも、ピアニストになる事を志したからでしょうか。 少しだけ、ちょっぴり、意思疎通ができました。とても嬉しい出来事なのです。えへへ、これからもこうして一緒に……。 ある日悠輝くんとこころを繋げながら、絵本を読んでいました。それはたしか…10歳の頃だったような…? その絵本には幸せになる方法が描かれていました。私たち付喪神の存在も明記されてて。 ………幸せの日々は崩れ去る。 ………幸せな時間は戻らない。 ………幸せって、何だろうか。 ………幸せ、愛、キセキの印。 ………幸せを求むは、私の心。 愛し愛される事だけが"それ"ではない。本当に愛してるの?愛されてるの? 幸せになる方法、教えます。 付喪神。"それ"を壊しゆくモノたち。 ____________________ 愛。愛。幻想。幻。幻。泡沫。夢。夢。 崩れ去る。泡のように。いつか消え去る。 儚いものだ。その存在は形を留められない。 ____________________ 私は危惧しました。危険を感じました。 あの巫(かんなぎ)の少女…様子がおかしい。 巫ってあんなものだったか…?あのチカラ以外は普通の少女と変わらないはずなのに。 いいえ、放っておいても良いでしょう。だって私には悠輝くんがいれば良い。 音を奏でられなくなった私。壊れ狂った私。…それでも、でもでも、愛し続けてくれたのは悠輝くん。 だから…私もそばに居て守り続けるわ。 … …… ……… …………ゆうきくんっ…! 時は流れゆく。時代は移りゆく。 悠輝くんはもう25歳になる。 嗚呼(ああ)、この空はなんと素敵なんでしょうか。私の心は空っぽになってしまった。 この、空の蒼を心にいくら詰め込んでも…私の心は空っぽだ。私のもちぬしは…いない。 だから私、もうすぐ…。 この…美しい蒼を、私の愛した人と… 見たかった。 私は消えない…まだ…だって… るいちゃんがまだ、そばにいる。 るいちゃん、見捨てないで、お願い… アナタの兄のように捨てないでっ! 私!アナタのパスケースの付喪神と違ってまだまだ働けるわ!……いいえ、無理もあるよね…私、もう…音を奏でられない。 やっぱりいい。私、消えるわ。 ありがと、ごめんね、るいちゃん。 …だけどせめてお願い。るいちゃんにも幸せになってほしいけど…あの子も…悠輝くんも幸せになってほしいの。 だからたまには彼の事見守っててほしいなぁ、だなんて…思ったり…してるわ…。 私は消えゆく。消え去っても日々は変わらない。この世で誰かが死んだって、日々が変わらぬのと同じ事。 私の心は空っぽ…身体もからっぽ。 あたまもからっぽ。 あいして…くれて…あり………と…。 ゆう……く………ん……。 私が消える時、チカラを感じた。 いつしか一度出会った、巫(かんなぎ)の女の子のチカラを、微かに。 …けど、神様のチカラも感じていた。 ………巫の子に…憑依でも……してたのかな。 付喪神は光の粒子となり、天に姿を隠した。 こうして1人。また1人。付喪神が消えた。 愛に依存したキーボードは可哀想な結末…だと思う?ねぇ、蒼空(そうくう)の元逝けるのは名誉あることよ?巫の私があなたも、いつか導くわ。 この日記を読み、悪魔(つくもがみ)について周りに広めてくれるならね。 …キーボードの付喪神が、私の事に気づきかけたのは焦ったけど、無事に他の人に伝わる前に消せてよかったわ。 さぁ、早く次を巡りなさい。次のページへ進みなさい。今は見えずとも、いつか開かれるわ。この物語の最終回まで。付き合って。
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