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狂い狂われmarionnette 前編
前編 巫の乙女が狂う舞い踊る時
マリオネットのように。
狂う、踊る、踊られ、狂わされる。
ひぃ…ふぅ…みぃ…あれ、1つ茶菓子が足りない。これ絶対食べたのは麗華(れいか)だ。
ここ、人の家だよ!?…私の家なのにっ!
茶菓子を買い直し…。
彼女を呼び出すと白状した。
どうやらお琴の練習の合間に1つ、食べたらしい。このお饅頭、確かに美味しいんだけど。でも食べないでよね!
そして麗華はこう言い笑う。
ーお饅頭が食べてって言ってたのー
なんじゃそりゃ…でもそういうところが彼女の気さくで親しみやすいところのひとつである。まぁイラっとくる時もあるには有るけどなぁ…。
これはそんな可愛らしい麗華が狂い狂わされてゆくお話。
両親を巫覡(ふげき)として持ち、娘の自分もその身を神に捧ぐ巫(かんなぎ)…アフリカやシベリア、モンゴルなどではシャーマンという。そんな少女の物語。
____________________
学校遅刻だ。やらかした。完全に夜中まで、ずっとマイ筆を愛でてるのが悪かった。
私は麗華。家は神社、職業は学生と巫。…とは言えども御琴や舞なんかの練習で忙しの見習い。自分で言うのもだけど、めっちゃ優しくて明るい性格…だと思ってる。
年齢は…12歳。ちなみに小学生。
まだ若いでしょ?この翠彩(みどりいろ)のランドセルが似合うの!…ちょっと角の辺りとかボロボロだけど。
お気に入りのモノはピアノと、御習字の時に使うこの筆。この子とはいつも一緒だ。
今日も変わらない日々。舞の練習、お琴に…生花…茶道もある。部活なんてせず即帰宅だ。今日は筆を愛でる時間もないだろう。
そう思ってた。今日は、違ったんだ。
筆。私の大切な、筆。
「それ」からなんだか声がした気がした。
ー麗華ちゃん、麗華ちゃん!ー
ふぇぇ、わたし?…
ー私は筆の付喪神つくもがみー
それは突然の出会いでした。
私の大切で愛する可愛い女の子の付喪神である筆の付喪神。私は今はまだ、その裏切りを知らない。筆と意思疎通でお話しが出来るようになってからはそちらに熱中していました。
そもそも神様をその身に宿す。
そもそも神様にその身を捧ぐ。
それが巫の役割。それが巫の使命。
だから私の神様にも、身体を差し出すまでは仲良く、時には友達のように、時には恋人のように関わり続けました。
でも。
舞わなくなり。琴を丁寧に扱わなくなり。
生ける花は千切り。湯呑みは割るという。
そんな生活にもなってしまいました。
付喪神の筆がいたせいです。そのせいで、早く会いたくて疎かになってしまったのです。
でも、何一つ悪い事だとは思いません。
だって私、神様とお話ししてる!
そんな春の日々。桜咲く出逢い。
ある日、お稽古の一環で、俳句を詠みました。
【花咲きし 桜見ゆるは 出逢いの日】
…あまりお上手ではありませんが。
様々な花が咲き、春の花の代表格である桜。
その桜が見えたら4月になる。4月は出逢いと別れの季節。新たな出逢いに…。
新しい出逢いは筆の付喪神。
新しい夢の時は筆の付喪神。
退屈だった、刺激の無い日々は見事に覆りました。お稽古で日々忙しく、友達が居なかったのもありましょう。
私は浮かれていました。今考えると、この身捧ぐ相手にこれだけ気を許す自分が馬鹿馬鹿しく感じます。
…その楽しい日々は長く続きませんでした。
真夜中。
何かが割れる音がしたので私は××へと向かったのですが、そこにいるのは…
いえ、そこに「ある」のは…
私の筆。つまりは筆の付喪神おともだちでした。割れたモノは壺…。
この壺はとある霊が封印されていたモノ。私と同じく巫であった母がその身を犠牲にし、封印したもの…。
…付喪神…ともだちの裏切り。
そう言うしか無いのだ。嗚呼、呆れさせるわ…この私に。付喪神に。
この霊がこの現うつつに呼び覚まされた事で危険に晒される事になったこの世界。
それを救う為にその身を犠牲に晒したのは私の父親。それで両親は居なくなった。
そう、その時は13歳、まだ中学2年生。まだ幼く、この世の理(ことわり)も理解できていない幼子(おさなご)の復讐劇の始まり。
ねぇ…わたし、どうしたらいいのかしら。
嫌いで大好き…でもやっぱり嫌いな付喪神。
好きで好きで好き、でもでも大嫌いになってしまった、あの…付喪神。大切だった筆の小さな神様。
私のそばに居る「ちいさないのち」
壺が割れた時、封印が解かれた時。そのチカラのせいか、消えてしまった私の筆の付喪神。
あの子の代わりになる、制裁を。
付喪神の贖罪。大好きな大嫌いな、あの子のために。
この世の中に溢れる付喪神(あくま)の贖罪は私の手で、今…始まるの。今…始めるの。
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