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「相変わらずドタバタと賑やかな現場ね(草)」
その人物と初めて出逢った日、僕は警察を辞めようと思った。
林皐月。警察に入って、やっと警部補になった年。僕はやっと現場でそれらしく振る舞えるようになるため──真っ黒だった髪を気持ち茶髪にして、スーツも少しだけ良いものに新調して、チビなのを誤魔化す為少しヒールのある靴履いて、童顔をごまかすためにまん丸な目元を前髪で隠して──それでその他諸々、試行錯誤して……怒られて。……つまり、あまり上手くいってなかった。
「オラ! 何やってんだ行くぞ」
上司である漆原警部の剛腕に引きづられるようにして、僕は現場に到着した。
「相変わらずドタバタと賑やかな現場ね(草)」
「またお前か──」
漆原警部は深い溜息をつき、目を眇めた。
小柄。色素の薄い茶髪──肩までの三つ編み、パッツン前髪。目はくりくりとまん丸く、よく見ると瞳は黒ではなくて深緑色。桃色の小さな唇。童顔なのか? それとも実年齢なのか? 高校生くらいに見えるのに、表情だけは大人びてる。
緑の──手作りだろうか? 質素な緑のエプロンのポケットから、黄色いスコップが見える。茶色の長靴と、おまけに軍手も着けていた。
まるで庭いじりでも始めるみたいな格好だ。
「警部のお知り合いですか?」
「まあな……」
少女(仮)はニッと不敵な笑みを浮かべ、ポケットから手のひらサイズのリングノートを取り出して、ページの1枚をビリっと粗雑に破った。
「私、こういう者です」
破り捨てられたようにしか見えないその紙には、『植物探偵事務所 所長兼探偵 花子』と、携帯の電話番号が走り書きされていた。
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