書店、曇天、有頂天。

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「いいよなぁ、颯太は。文芸書担当なんだから」  悔しさのあまり、つい口に出してしまった。 「いつまで言ってるんだよ。 別の担当でも精一杯やれっていう店長からのお達しなんじゃないの?」  颯太が呆れた顔で、何回目になるか分からないセリフを言う。  うちの書店では、アルバイトでもそれぞれ担当を持っている。 担当といっても厳密な線引きがあるわけではない。 レジは担当に構わず打つし、お客さんの探している本が担当の分野でなくても、もちろん案内する。 担当別の業務としては、各コーナーを重点的に整理したり、ポップを作ったりするくらいだ。  小説が好きだと面接時に言っていたこともあって、拓人は最初、文芸書の担当になった。 在庫の整理などもするので新刊情報も早く分かるし、おすすめの本のポップを作るのも楽しかった。  それなのに、1年半ずっと担当していた文芸書から、先月担当替えがあった。 次に拓人に当てられた担当は児童書。  拓人がこのバイトを続けられるのは、文芸書担当ということも大きかった。 文芸書を担当しているというのは、一種のステータスのようにも感じていた。 他のみんなよりも小説が好きだという自負もあった。 それなのに。 漫画や参考書ならまだいい。 よりによって児童書なんて。 所詮子どものおもちゃだ。 そんなものに力を入れているのがばからしくなる。 「まぁ、そろそろ受け入れてやる気出せよ」  自分の後任になった颯太と、秋の読書フェアと書かれた文芸書コーナーのポップがちょっとだけ腹立たしかった。 
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