書店、曇天、有頂天。

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 それから2週間ほど経ったある日、拓人が在庫整理をしていると、またあの少女を見かけた。 場所は、前回と同じ心理学の参考書コーナー。 こんなわずかな時間に2回も来るということは、買った参考書が合わなかったのだろうか。 「この前の参考書、あまりよくなかったですか?」  気付いたときには少女に声をかけていた。 児童書担当になってから、拓人が自分から客に話しかけるなんて、珍しいことだった。  少女も、拓人が前回の店員だと気付いたようだ。少しだけ目を見開き、すぐに困った顔になる。 「そうなんです。図が多くて分かりやすいかなと思って買ったんですけど、基礎的な内容ばかりで……」 「それなら、こちらとかはどうですか?  一見文字ばかりですが、解説が分かりやすいんです。 基礎はある程度分かっているお客様なら、こちらでも十分理解できると思います」  本棚から1冊抜き取り、ぱらぱらとページをめくる。 少女も拓人の手元に目を向けた。 「ありがとうございます。やっぱり、店員さんは本に詳しいんですね」  少女が参考書を受け取る。さっきより表情が和らいだように見えた。 「あ、いや、俺はたまたま、大学で専攻してるから……」  急に照れ臭くなり、顔の前でひらひらと手を振った。 拓人は、大学で心理学を学んでいる。 必要最小限しか授業には出ていなくとも、仮にも大学生だ。受験は経験済みだ。 「私、受験生なんですけど、N大学の心理学部を狙ってて。参考書おすすめしてもらえてよかったです」  少女はもう一度拓人に頭を下げると、そのままレジへと向かった。 N大といえば、拓人の通っている大学だった。
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