書店、曇天、有頂天。

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 拓人がバイト先まで自転車を走らせていると、2人組の女子高生とすれ違った。 テスト勉強だろうか、手には英単語帳が握られている。 もしかしたら受験生かもしれない。  そういえば、あのN大志望の少女はどうしているだろうか。  口元まで覆うようにマフラーを引っ張り上げると、強くペダルを踏み込んだ。  本屋に繁忙期があるとすれば間違いなく冬だ。 クリスマスになると、本をプレゼントに選ぶ人は意外に多い。 子どもが小さければなおさら、ゲームよりも絵本を贈るのだろう。 また、クリスマスだけでなくお正月も、図書カードをお年玉としてあげる人は少なくない。 12月になるとラッピングの受付にちょっとした列ができ、クリスマス直前には話題のパンケーキ屋同様の大行列となる。 「すみません、これプレゼント用なんですけど」 「はいはい、レジでお会計後にお包みしますー」  正直またか、と思う。 文芸書を担当していた頃は、ラッピングも楽しみの一つだった。 この人はどんな本をプレゼントするのだろうか。 自分が好きな本だと嬉しくなるし、あまり知らない本だと新たな発見にもなる。 しかし、児童書となるとそうもいかない。  もちろん書店員として包む本を選り好みすることはないが、それでも児童書コーナーにいると絵本のラッピングを頼まれることが多い。 ラッピングはレジ横のカウンターでできるが、勝手が分からず近くの店員に声をかけるのだろう。  無心で『しろくまちゃんのホットケーキ』を包装紙で包む。 これも定番中の定番で、これといって新しい発見はない。 同じような定番絵本があと4冊。 ラッピング待ちの列と同じくらい長いため息をつく。  ふと顔を上げると、あの少女が視界に入った。 今日は土曜日だからか、制服は着ていない。 今までと違い、彼女がいるのは文庫コーナーだった。
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