2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
春になると、本がよく売れる。
新学期で使う教科書や参考書はもちろん、いろいろなことに対して心機一転、新しい本を手に取りたくなるのかもしれない。
大きく息を吸うと、みんなの緊張感も一緒に吸い込んでいるような気がした。
あれから、N大志望の少女はどうしているだろう。
浮かない顔をしていたとはいえ、受験生に小説を薦めたのはまずかっただろうか。
店員と客。たったそれだけの関係。
ここにいる人全員と同じ関係だともいえる。
それでも、何の音沙汰もないことに焦れったさを感じた。
「よし、じゃあ夕礼始めるぞー」
店長の声に、軽く頭を振る。
もやもやとした考えを頭の隅に追いやった。
「今日から入った新人を紹介します。篠原茉莉乃さんです」
そこには店長の隣で恐縮しているあの少女がいた。
たった数ヶ月だったが、軽く化粧もしていて表情も明るく、もう少女というより一人の女性だった。
「秋庭、店内さらっと案内してから簡単な業務教えてあげてー」
拓人は元気よく「はい!」と返事をした。
茉莉乃もくすくす笑っている。
夕礼が終わると、バックルームからぞろぞろとスタッフが出ていった。
拓人と茉莉乃だけが残される。
最初に口を開いたのは茉莉乃だった。
最初のコメントを投稿しよう!