書店、曇天、有頂天。

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 春になると、本がよく売れる。 新学期で使う教科書や参考書はもちろん、いろいろなことに対して心機一転、新しい本を手に取りたくなるのかもしれない。 大きく息を吸うと、みんなの緊張感も一緒に吸い込んでいるような気がした。  あれから、N大志望の少女はどうしているだろう。 浮かない顔をしていたとはいえ、受験生に小説を薦めたのはまずかっただろうか。  店員と客。たったそれだけの関係。 ここにいる人全員と同じ関係だともいえる。 それでも、何の音沙汰もないことに焦れったさを感じた。 「よし、じゃあ夕礼始めるぞー」  店長の声に、軽く頭を振る。 もやもやとした考えを頭の隅に追いやった。 「今日から入った新人を紹介します。篠原茉莉乃さんです」  そこには店長の隣で恐縮しているあの少女がいた。 たった数ヶ月だったが、軽く化粧もしていて表情も明るく、もう少女というより一人の女性だった。 「秋庭、店内さらっと案内してから簡単な業務教えてあげてー」  拓人は元気よく「はい!」と返事をした。 茉莉乃もくすくす笑っている。  夕礼が終わると、バックルームからぞろぞろとスタッフが出ていった。 拓人と茉莉乃だけが残される。 最初に口を開いたのは茉莉乃だった。
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