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「秋庭さん、以前はありがとうございました。私、N大に合格したんです」
「そうか、それはよかった。おめでとう」
何と答えていいか分からず、なんでもないことのようにさらっと言った。
でも、なんだろう。
自分のことでもないのに体からじわじわと温かいものが込み上げてくるようだった。
自然と拓人の顔から笑みがこぼれる。
自分のやったこともあながち的外れでもなかったんだと感じた。
「人に合った本を見つけるサポート。すごく素敵なお仕事だと思いました。
受験では辛いこともいっぱいありましたけど、私に合ったものを選んでくれた店員さんのことを思うと、頑張れました」
茉莉乃は視線を下げながらも、しっかりとした口調で拓人に伝えた。
「あのとき、秋庭さんが小説を薦めてくれて、嬉しかったんです。
私のことを見てくれているんだなって。
たとえ志望校に落ちても、自分の頑張りを見てくれている人がいるんだって」
茉莉乃の目はきらきらと輝いていた。
拓人と目が合い、2人して笑い合う。
バックルームから出て、店内をゆっくりと見てまわる。
その途中でふと茉莉乃に声をかけた。
「篠原さんは、希望の担当とかあるの?」
「希望は、参考書……かな。
秋庭さんみたいに、受験生や頑張る人をサポートしたいなと思っています。
でも、どの担当になっても店員としてやるべきことは変わらないし、それぞれの人にぴったりの本を探してあげたいです」
拓人はその場に立ち止まる。
違う。
拓人が茉莉乃を見ていたんじゃない。
茉莉乃も、拓人のことを見ていたんだ。
見てくれていたんだ。
胸が、熱くなった。
気恥ずかしくなって茉莉乃から目をそらすと、視線の先には児童書コーナーがあった。
どの担当になっても、店員としてやるべきことは変わらない、か。
対象が大人だろうが子どもだろうが、本を探していることには違いない。
児童書と、もう少し、向き合ってみてもいいかもしれない。
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