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51.闇夜の灯
――東京旅行 二日目 土曜日 20:15 池袋界隈。
喧噪に塗れるその眠らない街は、まだ宵の口だというのに、酒場をはしごする者、獲物を狙う違法な客引き、ギラついた目で女を追いかける若い男、寝床を探すカップル、帰宅を急ぐ者等々で絶え間なく人々が交差し、相変わらず混沌とした世界を生み出している。
「俺から離れんじゃねぇぞ」
「……ん」
嵐と共に並んで歩く私は、改札を出ると、昨晩楓と歩いたルートを辿り、京介がいるであろうBLACK KINGを目指す。
九月ももう半ばをこえた秋夜の繁華街は少し冷え冷えとしていて、寒さ故か、緊張故か、微かに体が武者震いしていた。
けれどもう、後に引き返す気はない。
両腕で自分の体を抱きしめ、しっかりと顔を上げると、前だけを見つめて毅然とした足取りで裏路地を突き進む。
すると、数分もしないうちに、見覚えのある廃墟のようなボロボロのビルと看板が見えてきて、私の緊張が否応なく昂った。
『地下1F BLACK KING』
「ここか?」
「……うん」
看板を見上げた嵐にそう問われ、軽く頷いて見せた。
心の中を整理するように、しばしの沈黙を作ってからチラと隣にいる嵐のことを見上げる。
白いカットソーの上にワインレッドの袖まくりシャツを羽織り、黒のカーゴパンツと黒のマウンテンブーツを履いた嵐は、勇猛果敢な瞳を真っすぐ前に向けて、かつての仲間がいるであろうその廃墟のようなビルを見つめていた――。
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